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迷子のシャーベット  作者: 春凪とおる


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4/4

第四話 見つけてくれる人がいたこと

ハッカソンが終わった夕方、律は会場ビルの外に出た。


夏の熱気が戻ってきた。

空は夕焼けで薄いオレンジ色に染まり、遠くの海が金属みたいに光っている。


参加者たちはそれぞれ帰っていく。

チームで写真を撮る者、名刺を交換する者、疲れ切ってベンチに座り込む者。


律は一人で歩き出した。


駅へ向かう途中、小さな公園があった。

噴水のそばにベンチがあり、親子連れがアイスを食べている。

子どもがカップを落とし、父親らしき人が慌てて拾い上げていた。


律はベンチに座り、リュックから父のエアタグを取り出した。

白い丸い端末。

そこには、もう謎めいたものはなかった。


ただの小さな機械だ。

それでも律にとっては、父が残した最後の問いだった。


なくしたものは、本当に消えるのか。

律はスマートフォンを開き、試作品のSHERBETに新しい記憶カードを追加した。


***********************

名前:父のエアタグ

言葉:シャーベット

場所:20××ハッカソン会場近くの公園

記憶:発表後、少し笑えた

忘れたくないこと:父は、僕を見つけてくれた

************************


保存ボタンを押す。

画面に、あの言葉が表示された。


 ”まだ、ここにある”


律はしばらくそれを見つめていた。


父が戻ってきたわけではない。

後悔が消えたわけでもない。


聞けなかった言葉は、永遠に聞けない。

けれど、すべてが失われたわけではなかった。


父が走ってきたこと。

シャーベットを買ってくれたこと。

「なくさないように」と何かを結んでくれたこと。


父が最後まで、律に何かを渡そうとしていたこと。

それらは、まだここにあった。


手の中ではなく、画面の中でもなく、もっと頼りない場所に。

思い出そうとする律自身の中に。


公園の売店で、律はレモンシャーベットを一つ買った。

木のスプーンがついてくる、昔とよく似た安っぽいカップだった。


蓋を開けると、冷たい甘酸っぱい匂いがした。

律はひと口食べた。


すぐに溶けた。

それでよかった。


溶けるから、急いで味わう。

なくなるから、覚えていようとする。

忘れるから、何度でも思い出そうとする。


律は空を見上げた。


白かった夏の空は、いつの間にか深い青に変わり始めていた。

スマートフォンが小さく震えた。SHERBETの通知だった。


 ”あなたは、何を忘れたくありませんか”


律は少し考えてから、文字を打った。


 ”迷子になっても、見つけてくれる人がいたこと”


送信すると、画面の中にその言葉が静かに浮かんだ。

それは賞を取るための機能でも、誰かに見せるための文章でもなかった。


ただ、律がこれから生きていくための、小さな目印だった。


父のエアタグをリュックの内側に入れる。

なくさないように。

見失わないように。


そして律は、シャーベットの最後のひとかけを口に入れた。

甘酸っぱさが舌の上で消えたあとも、その冷たさだけが、しばらく残っていた。


{

"name": "父のエアタグ",

"keyword": "シャーベット",

"location": "20××年、ハッカソン会場近くの公園",

"memory": "発表後、少し笑えた",

"neverForget": "父は、僕を見つけてくれた"

}

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