侵略される者たち
シロイルカとベルンンガは島の周りの海を探検します。海はどこまでも続いています。二匹のいる島は南海の絶海の孤島でした。暖かくて穏やかな海中は生命に満ちています。綺麗なサンゴ礁はいろいろな色に色づいて鮮やかです。熱帯の小さな魚たちがいます。砂地には大きなエイがいます。シロイルカとベルンンガは海の中を探検します。
「海とを探検しろと言われても、何を調べればいいのか。白いトラっちは何が知りたいのだろう。確かにトラさんには海は珍しいのかもしれない。でも、こっちはイルカだからな。海は見慣れている。どこまで行っても只の海さ。敵がいたら逃げればいい。正直、その程度な気がするな。とりあえず危険なところを探して白いトラっちに確認しよう。」、シロイルカが言います。
「うん、やっぱり白いトラっちが泳げないことが問題ベルね。練習するとは言っているけど。そんなにすぐには泳げるようにはならないだろうし。やっぱり、アイツの出番かもしれない。」、ベルンンガは言います。
2匹は一日の調査を終えて、白いトラっちの小屋に戻りました。おや、ベルンガとシロイルカの他にもう一匹連れています。
「誰だ、コイツ。ベルンガとシロイルカのそっくりさんだな。」、白いトラっちは3匹を見ていいました。
「マッシーです。ベルンガとシロイルカの弟だよ。泳ぐのがすごいうまいから、白いトラっちに泳ぎを教えてもらおうと思って。」
それはベルンガたちの弟だったのです。マッシーの体はとても筋肉質でマッチョでした。これから、白いトラっちには地獄の水泳教室が始まります。白いトラっちは青い顔をしています。どうやら、あまり水の中は好きではない様子です。
白いトラっちは水が嫌いでした。白いトラっちはなんとか身の回りを忙しくすることで海に入ることを遅らせていました。それを、見かねてシロイルカは白いトラっちは泳がせることにしました。
そもそも、猫というのは水を嫌う生き物です。白いトラっちはトラなのでネコ科です。白いトラっちが海に入りたくないのは仕方のないことかもしれません。それに白いトラっちは海の上を長い間、漂流していた経験があります。白いトラっちにとって海は恐ろしい場所だったのかもしれません。
マッシーはそのあたりのことを説明されていました。しかし、マッシーには海を恐れる気持ちが分かりませんでした。イルカというのは海の中で生まれ、海の中を生き、海の中で死ぬ、生き物です。マッシーにとって海の水というのは陸地の生き物の空気の様な存在でした。それに、茶色いトラっちはよく海で泳いでいるところを目撃します。マッシーは白いトラっちを毎日、海につれていくことにしました。
白いトラっちが日々やっていたお肉屋さんはモルモットがやってくれるようになりました。ちょうど、白いトラっち回顧録も書き上げました。白いトラっちはここ最近はゴロゴロと過ごしていたのです。
「白いトラっち、海行こうよ。」、マッシーは毎日白いトラっちの小屋に来ます。
白いトラっちはマッシーに連れられて、渋々海に行きます。砂浜で白いトラっちは入念に準備運動をします。白いトラっちの準備運動はいつまでも続きます。
見かねた、マッシーは白いトラっちを持ち上げて、海に放り投げます。すると、白いトラっちはボシャボシャと溺れます。なんだかとても可愛そうな光景です。しかし誰も助けません。本当に一大事と見るとマッシーが引き上げます。こんなことで泳げるようになるのでしょうか。
白いトラっちにとっては悪夢の日々が始まりました。マッシーのスパルタ教育の日々は続きます。白いトラっちにとってマッシーは逆らうことのできない悪魔でした。マッシー力は強く、白いトラっちが抵抗しても簡単に海に投げられてしまいます。それに、話し合おうと思って、白いトラっちが声をかけても、マッシーは相手にもしてくれません。マッシーは白いトラっちが泳げるようになれば、他のことはどうでもいいようでした。マッシーにとって白いトラっちの苦しみというのは関係のない物事でした。
白いトラっちは徐々に水中でバランスを取れるようになってきました。白いトラっちはそうなるまでに大量の海水を飲みました。マッシーは白いトラっちが水中でバランスを取れたことを確認すると、自分も海に戻りました。そうして白いトラっちの足を引っ張りました。白いトラっちはまたしても大量に海水を飲んでしまいます。
「ちょっとこれはひどすぎるのではないか。」、白いトラっちは言いました。
「でも、白いトラっちがこれから世界に向けてやろうとしているのはこういうことじゃないの。自分の考えを世界に広げていくんでしょ。世界の方は白いトラっちの考えたことに合わせないといけない。それは、白いトラっちが泳ぎを覚える過程にそっくりだよ。何度も投げられて、痛い思いをしないといけない。今度は痛い思いをさせるのは白いトラっちの方だ。それでもやるんでしょ。それでもやるなら、言葉なんていらない。ただ行動があるのみだ。」、マッシーはそう言って白いトラっちを海に投げました。
白いトラッチは考えました。自分のやろうとしていることは世界のためにはならないのかもしれないと。世界を救うと何かを行動するにはただの自己満足に過ぎないのではないかと。自分の行動することで世界が良くなることが確かにあるかもしれない。でも、世界が良くなった分だけ世界が悪くなるようにも思ったのです。自分がやろうとしていることは無理やりに世界を変えようとすることで、とてつもない軋轢を生み出してしまうかもしれない。何をしても虐げられる者たちが出てきてしまう。いったいどうしたらいいのでしょう。白いトラっちは虐げられる者たちの苦しみができるだけなくなるようにしようと思いました。でも完全にはなくせません。どうしても、白いトラっちが行動すると誰かの自由を奪ってしまいます。だからといって、何もしないわけには行きません。
白いトラっちは自分の行動を確信しました。泳ぎも上達しました。どちらも時間がかかりました。海の中の世界は白いトラっちには新鮮でした。そこには色彩が溢れていました。見たことのない生物もたくさんいました。これまでの白いトラっちが見たこともない世界が広がっていたのです。
白いトラっちはシロイルカたちが安全と判断したところをスイスイと泳ぎました。沈没船の中を探検したりもしました。沈没船の中は真っ暗で何も見えません。砂浜にいるエイに驚くこともありました。エイは巨大な毒針を持っています。海の水に全身が包まれているのは不思議な感覚でした。でもとても心地が良いです。
白いトラっちは海の広さに驚きました。海はどこまでも続いています。陸地はどこまで言っても見えては来ません。白いトラっちは自分が島に漂着できたことを奇跡のように感じました。もしかしたら、この世界はほとんどが海なのかもしれません。トラさんの生きていける陸地というのは貴重な場所なのかもしれません。白いトラっちは海に潜ることで自分が生きている世界の見え方が大きく変りました。自分がとてもちっぽけな存在に思えました。白いトラっちがいる、島もとても小さな存在に思えました。島の山から煙が上がっています。なにかあったのでしょうか。白いトラっちは調査を終えて、島に戻ることにしました。
島では火山が噴火していました。火口からはマグマが吹き出し、空は火山灰に覆われています。溶岩も飛んできます。ちょうど、島を探検していた茶色いトラっちは驚愕しました。島の動物たちは森の奥の洞窟に逃げていきます。カメは甲羅にこもります。茶色いトラっちには逃げ場がありません。仕方がないので岩陰に隠れてやり過ごします。




