9話
「本当にありがとうございます」
「今日から君は“舎弟”だ」
「ほえ?」
「世の中には一宿一飯の恩義というものがある、世話になったらその恩を忘れてはいけないという意味だ」
「はぁ………」
「恩は返さなければいけない、つまりはそういうことだ」
「ダメ」
「魔獣の肉しか出せない人は黙っていてもらおうか。病人にはお粥と決まっているのだ、まったく私がいなかったらどうなっていたことか。病人を殺す気か君は!」
「くっ!」
勝利!生意気な女を論破してやった。最高の優越感だ。
「わかりました、何ができるかわかりませんけどこの恩は絶対にお返しします」
「うむうむ、賢い。君は賢い子供だ」
「あ、ありがとうございます」
「ところで君はどうしてここに?」
「ええと………あの、危険を感じたらこの地下室に逃げるようにと、外で悲鳴が、それがだんだん大きくなってきて、なので、魔獣の声がずっと聞こえていて、食料が途中で尽きてしまって、目の前が暗くなって体が動かなくなっていって、このまま死んじゃうんだなと思っていたら光が…」
「その光はこいつのやつだな」
「そうだったんですね、ありがとうございました。暖かくて優しくて、暗い池の底に沈んでいく体が水面に向かって浮き上がる感じがして、本当にありがとうございました」
「うん」
こいつ、照れとる。そしてめちゃくちゃ満足そうな顔してやがる。そう思ったのも束の間、女はキッっと睨んできた。
「なんだ」
「コイツ、じゃない。私は生まれながらにして気高き存在」
「コイツ様」
様を付けたらなんとかなるか?
「バカじゃないの?」
駄目だった。
「そんじゃあ名前は?名前を知らんことにはどうしようもない」
「………………」
無いのかよ。召喚されたユニットは名前を持っていない、これは知らなかった。
「それなら付けてやるよ、「ブブゼラ」これでどうだ?」
「なにそれ?」
「とんでもなくでかい音の出る楽器だ、いい名だろ」
「バカじゃないの?」
駄目だった。
「あなたに名前を付けるだけのセンスがあるとは思えない」
「そーかいそーかい」
ものすごい見下した目で見てきやがる。ピッタリな名前だと思うんだが。
「そんならそっちにつけてもらえば」
「えっ!?ボクですか?」
「ブブゼラ(仮)は俺のことを信用できないらしいからな。命の恩人でもあることだし名前を考えるくらいやってもいいと思うが」
「助けてくれたことにはすごく感謝していますし、ボクにできることならなんでもやらせてもらいたいです、けど………名前を付けるなんて、そんな」
「こういうのはインスピレーションが大事だ。どう思う、こいつを見て何を感じる」
「えっと、すごく綺麗で、美しくて、」
決まった!
「お前の名前はキレイキレイだ」
無視された。
「まるで宝石みたいに赤くて綺麗な目で、それで、髪の毛もすごく綺麗で、まるでお月様みたいな色で、えーとなんていえばいいんでしょうかこの色は、白というわかじゃないですし、もっとキラキラしてまるで光ってるみたいに」
「白銀」
「え!?」
「いや、なんとなく思い浮かんだだけだが…」
「そんな言葉初めて聞きました」
「白い銀と書くんだ」
二人とも驚いたような顔でこっちを見るのでこっちも驚いてしまった。いつの間にか言っていた。自分が言ったとは思えないくらいに無意識だった。
「白銀、わからないですけどこの髪の色はそう呼ぶのが一番合っているような気がします。今までに見たどんな色よりもきれいです」
「白銀………」
まんざらでもないような顔をしている。
「どうでしょうか「白銀様」というのは」
「悪くはない」
「本当ですか!?」
「うん。いいかも」
「あなたの名前は?」
「ボク、ボクですか?僕の名前は「ヒカリ」っていいいます」
「ヒカリ、いい名前」
「白銀様、とお呼びしてもいいですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます」
まるで仲のいい姉妹のように盛り上がっているがーーー
「俺が考えたんだけど」
一応言ってみた。別に自慢したいとか恩に着せたいとかは思ってないが、この場に存在しないみたいになっているのは嫌だった。しかし残念なことになぜか俺の声は二人には聞こえていないようだった。
「あのーお名前教えてもらっていいですか」
「俺か、俺の名はノブナガ」
「ノブナガ様と呼んでもいいですか?」
「様はいらない」
「バカノブナガ」
「バカもいらない」
「バカノブナガバカ」
「バカで俺の名前を挟むな」
「ノブナガさん、でいいですか?」
「いいぞ。ところでお前はなんでこんなところに?」
白銀の毒舌を途切れ差すために話題を変える。
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