10話
「魔獣が、突然のことでした大勢の魔獣が、何かあったらこの地下室に逃げるようにと言われていて、ボクは、途中で食べ物も水もなくなって、それでも上のほうではまだ魔獣の声がして出れなくて動けなくて、見つかるんじゃないかとずっと怖くて、体が動かなくなってきて、それで」
ヒカリと名乗った少年が青ざめた顔で語る。相当に怖かったのだろう、こんな暗い所に一人で、いつ見つかるかって殺されるかもしれないという状況、当然のことだ。
「魔獣?どんだけいたんだ?」
「わかりません、声が聞こえてきてボクは逃げたので」
なるほど、賢い選択だ。見たところでこんな子供にはどうすることもできない、それなら一刻も早く逃げたほうがいい。もし自分がおなじ目にあったらそうすることにしよう。
「魔獣たちの目的は?」
白銀がつぶやくように言った。
「わかりません。ただ何日もここにいたのは間違いないと思います。人の声が聞こえていたのは最初だけであとはずっとーーー」
確かにそうだ。もしや!この街に何か秘宝が?魔獣たちは探し当てたのか?それとも諦めたのか。そうか、だからこんなにめちゃくちゃに建物を壊していたのか。
「そうか!」
地下室を素早く見渡す。もしかして宝箱とかーーー
「無い」
がっかりだ。
「なにそれ」
白銀とやら、そんなに冷たい目で見るな。まあ目的のものが見つかったから帰ったんだろうな、それか単に暴れたかっただけか。
「いる」
「なにがだ?」
もしや!
「いないんだが」
「何言ってるの?」
「カマドウマのことだろ、暗くてじめじめしたところにあいつらは大量にいるからな」
俺の大嫌いな虫。いなくて助かったよ、あいつらただでさえ気持ち悪いのにピョンピョン跳ねるから最悪なんだ。
「魔獣」
なに!?そんな馬鹿な、俺の気配探知には全く反応がーーー
「うを!」
めちゃくちゃ見られていた。入ってくるときに使った穴からぬうっと。
「ヒカリ」
青ざめた顔で歯をカタカタ鳴らしている。そりゃあ怖いだろうな、俺だって驚いたさ、見上げたら穴からデカグロ昆虫がのぞいてたら。
「人間!とっとと上がってこい」
高圧的で聞き苦しい怒鳴り声、これが魔獣の声か。
「ここにいろ」
二人の視線が集まった。
「白銀、ヒカリを頼む」
ヒカリはすっかり怯えてしまっていて呼吸もおかしい、過呼吸かもしれない。
「ここは俺一人で十分だ」
格好いい。
ものすごい満足感、映画の登場人物になったような気がする。楽しい、最高に楽しいぞ
このゲームか夢。一番最初に出てくる魔獣、どうせ大したことのないやつに決まっている。
カツカツカツ、と梯子を上っていく。
多い。
思っていたより敵が多い。RPGだったら多くて3匹でワンセットくらいだと思うが30、いやもっといるんじゃないか?戦国無双みたいなゲームか?
「ジジジジジジジジ………」
二足歩行の蠅みたいなやつが俺を中心に円状に取り囲んでいる。1mくらいはあるぞこいつら。人間にしては小さいけど蠅にしては異常にでかい。
「なぜお前だフキツはどうした」
一匹だけ違うのは巨大コウモリみたいなやつ。こいつは蠅よりもでかい2mくらいはありそうだ。喋れるのはコイツだけなのか?
「おいカトウ!聞いているのか!」
なんでこいつは俺の名前を加藤だと決めつけてるんだ?意味が分からん。それに結構腹の立つものだな巨大コウモリに命令形を使われるのは。
「おい!」
どうやら向こうも気が立っているらしい。声を荒げたコウモリがその巨大な翼を振るうと、俺の両横の地面を細く深く、そして長く抉った。脅し。お前のことも抉ってやるぞ、そういうことらしい。
「ジジジジジジジ………」
蠅たちも脅すようにうなり声を大きくした。
イケる、か?
なんかやばいような気がしてきた。コウモリの爪が鋭いのはもちろんだが牙もすごい。今気が付いたが蠅たちの口にも鋭い牙が見える。牙があるということは肉を食うということだよな。
背中の白い鞭だけでいけるか?イケなかったら俺はバリバリ食われてしまう。夢にしてもこんな奴らに食われて死ぬなんて酷すぎる。そもそも一対一くらいの感覚でいたからこんなに大勢に囲まれてボコられるなんて想像もしていなかった。
波。
白銀の使った青い波なら全体攻撃できる、人数の差なんて関係ない。
けど………本格的にダサいことになる。来るときに格好をつけてから来てしまった。そんなことをしておいて今更助けに来てくれとは言いたくない。そんなのはゲームの主人公がやるべきことじゃない。
「カトウの分際で!」
黙ったままの俺を見てコウモリはブチ切れしたようで両腕を振るうのがスローモーションのようにゆっくりと見えた。ヤバい、スローモーションってことは死?俺の体は切り裂かれゲームオーバー………
なんの痛みもなかった。
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