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92 外聞

 翌日、俺はいつもどおり昼過ぎにログインする。


 ちなみに昨日はジョージさんの護衛を終えて、いくつかソロで出来る簡単なクエストをこなしたところでログアウトした。


 ジョージさんは俺のおかげで予定より長く採掘が出来たとかで、少し多めに報酬をくれた他、護衛中のドロップアイテムも全部貰った。まあアイテム自体は大して良いものはなかったけど、それでも所持金的には結構な余裕が出来た気がする。


 レベルも16に上がったしジョージさんともフレンドになれたので、昨日のソロ活動も個人的にはちゃんと収穫があったように思う。


「ん、メッセージが届いてるな……ハルカか」


 メッセージが送られた時間を見ると今日の昼前だった。どうやら朝の活動を終えて、昼飯のログアウト前に送ったみたいだ。


≪今日はフェリックで受けられるクエストをみんなでやろうって話になったんだけど、お兄ちゃんもそれでいい?≫


 ハルカはいつもこんな感じで俺の都合を確認してくれる。決して参加を強制するようなことはしない。妹だけど、人間的には俺なんかよりずっとしっかりしていた。


 俺は≪おーけー≫とだけ返事をする。特にやることはないので断る理由もない。


「あ、チトセさん。こんにちはっす」

「ん、ああヒヨリか。こんにちは」


 俺がそうしていつもの噴水前に立っていると、通りがかったヒヨリに声をかけられる。


「チトセさん今日はお一人っすか?」

「いや、俺はちょうど今ログインしたところで、この後はみんな揃ってからフェリックでクエストをやる予定だよ」

「フェリックのクエストっすか? ……ああなるほど、たぶんそれ未開拓エリアツアーっすね」

「未開拓エリアツアー?」

「フェリックより向こう側には調査団の手が行き届いていない未開拓のエリアが広がっている、っていうゲームの設定は聞いたことないっすか?」

「ああ、そういえば何回かそんな話が出てたな」

「そこの情報収集を頼まれるクエストがフェリックで受けられるんすけど、北と西と南の三か所をめぐることになるんで――」

「なるほど、それでツアーと」


 未開拓エリアツアーというのは俗称らしいが、多くのプレイヤーがそう呼んでいるのだとか。


 ちなみに未開拓エリアツアーのクエストを完了するとフェリックの調査団の信頼を得ることが出来て、別のクエストが受けられるようになったり利用できる施設が増えたりするらしい。


 何にせよゲームの攻略を進めていく上では、必ずクリアする必要があるクエストだという話だった。


「あのーチトセさん。もし良かったそのクエスト、自分もご一緒していいっすかね?」

「ん、別に大丈夫じゃないか? というか俺はまだ本当にそのクエストをやるのかどうかも知らないんだけど……お、ちょうどハルカがログインしてきたから確認してみるか」


 俺はそう言ってからハルカにメッセージを送る。


≪今日やるクエストって未開拓エリアツアーってやつか? もしそうならヒヨリも参加したいって言ってるんだけど問題ない?≫

≪うん、そのクエストだよ。ヒヨリさんの参加も大歓迎だね。パーティー枠はあと二つ空きがあるから、他にも参加したい人がいたら呼んでいいよ≫


「ヒヨリの想像通り未開拓エリアツアーのクエストをやるみたいで、ヒヨリの参加も大歓迎だってさ」

「良かったっす」

「そういえばあと二人までなら参加できるらしいけど、他に呼びたい人とかいる?」

「自分は特にいないっすね。というかそこまで攻略が進んでいる知り合いは固定パーティーばかりなんで」

「それもそうか」


 ということでヒヨリも一緒にクエストをやることになった。

 ちなみにヒヨリのレベルは15になっていて、すでに他のパーティーに参加してフェリックへの通行証も手にいれてるらしい。この感じだと明日にはレベルも追い抜かれていそうだ。


 そうしてフレンドリストでハルカの位置を見るとすでにフェリックにいたので、俺たちも馬車を使って移動することにした。今回はたぶん現地集合なのだろう。


「チトセさん、そういえばクラン作ったんすね」

「ああ、≪PoV≫っていうんだ。といってもまだメンバーは少ないけどな」

「まあ今の時期は仕方ないっすよ。それにこのサーバーはベータテストからの継続組も多いので」

「そういやヒヨリって今フリーなんだよな? もし良かったらうちのクランに入らないか?」

「えっと、それは……すみません、誘ってもらえたのは凄く嬉しいんすけど、今はまだ参加できないっす」


 ヒヨリの雰囲気的には社交辞令という感じではなく、本当に参加したい気持ちはありそうだが、何やら事情があるようだった。


 そういうことならしつこく勧誘しても仕方ないので、大人しく引き下がることにしよう。


「そうか」

「…………え、それだけっすか?」

「いやまあ、残念だけど仕方ないかなって。理由とかを詮索するのも悪いし」

「確かにそうっすけど……気になりません?」

「というかヒヨリが聞いて欲しいんだな?」

「えへへ、そうっす。ということで理由を話しますけど、実は今のチトセさんたちって、攻略組の間では結構注目されている存在なんすよね」

「俺たちが? ……どうして?」

「本気で自覚なさそうなのがチトセさんらしくて良いっすね。とりあえず理由としてはまずフェリックへの一番乗りを四人で達成したことっす。今でも大抵のパーティーは八人でジェフを倒しているんすけど、それを誰よりも早く、しかも少人数で倒した実力派プレイヤーたちということで注目されるのは当然のことっすよ」


 何でも攻略組と呼ばれる上位層のプレイヤーたちはそれぞれ情報交換をしているらしい。そしてその行き交う情報の中には俺たちのことも含まれていたようだ。


「あともう一つはシャルさんの存在っすね」

「シャルさん?」

「攻略組のクランはどこも一度はシャルさんに勧誘の声をかけたことがあるんすけど、全て断られてきた過去があったりするんすよね。というかパーティーを組んでるのすら誰も見たことがないくらいなんで、そんなシャルさんがどうしてチトセさんたちのクランに所属しているのかは、かなり注目度の高い話だったりして」

「なるほどな……でもそれとヒヨリがクランに参加できないって話に繋がるんだ?」

「いやまあ個人的な心情なんすけど、Gramさんらには自由に狩りがしたいと言って≪LF≫を抜けた手前、すぐに他の有力クランに移籍するのはさすがに外聞が良くないじゃないっすか」

「有力クランなぁ……うちのクランは効率とかそこまで気にせずに、ゆるく集まったり集まらなかったりで適当にやっていく方針なんだけど、それでもダメなのか?」

「この場合は実態がどうかではなくて、周りからどう見えているかの話っすからねー。現状一番攻略が進んでいてシャルさんまで所属しているクランに移籍したら、色々と悪い噂が立つのは避けられないんすよ」


 とまあそんな理由で、現時点ではヒヨリがうちのクランに所属するのは難しいという話になるようだ。確かに説明されてみれば理解できる状況だった。


 まあクラン勧誘は無理強いするような話でもないし、≪PoV≫というクランがそこまでガチガチに効率を重視してプレイしていないこともいずれ知られていくはずだ。


 何にせよとりあえずヒヨリを勧誘するのはもう少し時間をおいてからにする他ないだろう。


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