あの日の光景 4
最後の夢の中は、やっぱり白い世界。
でも今までとは違って、どこかフワフワとした、眩しいところ。
「勇者」
声をかけてきたのは妖精さん。
「幸せですか?」
(うん)
(幸せ)
(あったかい)
こことよく似た白い世界で終わった、前の人生。
思い出すと、悲しく悲しくてたまらない、「僕」の人生。
あって当然のものがなくて、
みんなが持っているものが僕にはなくて、
(すごく寂しかった)
「また、旅が始まります」
(また?)
「悲しい思い出を持ったまま行ってはいけません」
(うん)
またあんな人生だったら、歩いていけないから。だから。
「これを」
妖精さんに手渡されたのは、お父さんからもらったモーニング・スター。
くるくると布を剥ぎ取って。
「さあ」
トゲトゲの鉄球はキラリと、光を浴びて輝いている。
それは、いきなりポンと弾けて。
(わあ)
中から飛び出してきたのは、虹色の輝き。
(友達と野球をしたよ)
(美味しいご飯をいっぱい食べた)
(欲しかったゲーム、徹夜でクリアしちゃったよ)
(学校では人気者なんだ)
(お父さんはとってもお茶目で、あったかい)
(僕のお母さんは優しくて、すごくキレイなんだ)
旅と旅の挟間の、オマケの時間。
悲しい旅をしてきた人だけに与えられる、逆転した世界。
次の旅に出る前に、準備は万端にしなければ。
幸せな気持ちでスタートできるように。
「さあ、目を閉じて」
(マイヤー毛布)
暖かい、幸せなまどろみの中に再び包まれて。
「忘れて、眠りなさい」
耳に響く優しい声が、勇者の心をここちよく揺らす。
ゆらゆらしながら、幸せな予感に微笑んで。
「さよなら、勇者」
(うん)
次はきっと、素晴らしい旅になるから。