とある先生の一日 <改>
5/1 ルイマール→ルイヴェール
◇ ◇ ◇
「おきて、おかあさん」
なんだろう、この天使のような声は。
「ここはもしかして天国!」
「なにいってるの? ねぼけてるの?」
「うーん、あと五分」
「おかあさんがよくいっている“お約束”っていうやつだね!」
ようやく頭がしっかりしてきた。私の目の前にいるのは、私の大切な娘ネルフィリア。クセのついた金髪と氷を連想させるような青い瞳がとても可愛い。
「今何時?」
「もう7時半だよ」
「……冗談だよね?」
「ほんとうだよ」
ヤバい、遅刻するかも……
「急いで朝ごはんの準備をしないと!」
ガタッ
「あ、お母さん起きた?」
ドアを開けて入ってきたのはもう一人の私の大切な子どもルイヴェール。
「ごめんね。今、朝ごはん作るから!」
焦る私に最愛の息子は一言
「もうぼくが作ったよ」
なんとできた子どもなのでしょうか。いや、親が駄目なだけですね……。
三人でテーブルについたら食事の始まりです。
『いただきます!』
朝ごはんを食べて、身支度を整えたらさあ出発。子どもたちを初等科の学舎に送ります。
「ごめんね。お弁当準備できなくて」
「きにしないで、おかあさん」
「そうだよ、お母さんはいつも大変そうだから少しくらい休んでもだいじょうぶだよ」
「ネル、ルイ……」
もう我慢できません。
「二人とも大好き!」
ギュッ
「お母さん苦しいよ……」
「くーるーしーいー」
やり過ぎてしまったようです。
かわいい子どもたちを送り届けたら、私も仕事に向かいます。
◇ ◇ ◇
この世界には巨大大陸がただ一つあり、その中にいくつもの国が存在している。現在一家が住んでいるのは、大陸の南東部に位置する〈ポルギリア王国〉。四大国家の一つだ。四大国家とは、その名の通り四つの巨大国家である。ポルギリア王国の他は、北東部を支配する〈チャリア帝国〉、南西部にある〈エジンリア皇国〉、そして中央を治めている〈グラシアム公国〉である。百年前には北西部に〈エスシエスト連邦〉があって五大国であったが、今そこは複数の小国に分裂している。国家間の関係はどこも良好で、ここ数百年は大規模な戦争は起こっていない。それも国境は、砂漠であったり、樹海であったりと、特殊な環境で魔物たちの棲みかとなっていることも理由のひとつだろう。
また、この世界の教育は発展していて、世界中の人間の識字率はほぼ100%になっている。六歳ごろから三年間初等科に通い、次の三年間中等科、さらに三年間高等科に通う。これらが終わってから、さらに専門的に学びたい人もいるだろう。だから様々な専門教育機関がその上にある。
◇ ◇ ◇
「なんとか間に合った」
遅刻しなくてよかった。私の子どもたちには感謝ですね。そろそろ授業のはじまりでしょう。
「先生、お願いします」
「わかりました」
◇ ◇ ◇
この世界には[魔法]と呼ばれるものがある。勘違いしないで欲しいのは、魔法は決して万能ではない。地球上ではたらく物理法則と同じように、魔法もまた法則性がある。
まず、人はそれぞれ多かれ少なかれ魔力をもっている。その魔力を使って発現させる力を魔法という。魔力は大きく分けて六種類ある。六種類とは火、水、風、土、光、闇である。このうち、光と闇の魔力を所有している者は滅多にいない。厳密にいうと魔力が体内にあるときは属性がない。これを純粋魔力という。しかし、いざ魔法を発現させようとしたときに属性が現れる。普通の人間は、一人につき一属性である。
◇ ◇ ◇
私の仕事は、大陸に五つある魔法の専門教育機関[魔導学園]の一つ、第三魔導学園の先生。私の担当する授業は、戦闘技能。
目の前で二人の男子生徒が戦っている。一人は剣、もう一人は槍だ。
「炎よ!」
剣を持っている方が距離をとって火の玉を喚び出し、相手に向かって放った。槍を持っている方は咄嗟に水の壁を展開したが、それが剣の生徒のねらいだった。火の玉が爆発し、それを目眩ましとして一気に距離を詰めた。
「ハアッ!」
「ウワッ」
「そこまで」
『ありがとうございました』
今の時間は、一対一の模擬戦を行わせます。彼らはこの学園の四年生です。戦闘にも慣れてきているでしょう。
その後さらに一年生の授業をして今日の授業は終了となりました。
◇ ◇ ◇
――放課後――
バタンッ
「ごめんなさい、少し遅れたわ」
「先生遅いよー」
「早く始めましょう」
「それでは、生徒会の活動を始めます」
この会話からわかるように、ここは生徒会室。私は生徒会顧問も受け持っているのです。
「今日の議題はなーに?」
この子どもみたいなしゃべり方をしているのが信じられないが、生徒会長シキ・ランスター。今年三年生というのが嘘にしか聞こえない身長140センチメートルの小柄な体と、長く伸ばした紅の髪が特徴的な少女です。
「今日は新年度に入って始めての生徒会でしょう。自己紹介からで、どう?」
シキの問いに答えたのは、トウワ・ワイマール。スタイルのいいこの生徒は生徒会副会長。本当にシキと同学年でしょうか? 薄い青色の髪をしていて、常に柔和な笑みを浮かべています。
「といっても、一人を除いて去年と同じメンバーですけれどもね」
そう言ったのは、生徒会書記のリョウカ・アストリア。二年生です。黒に近い紺色の髪を腰のあたりで束ねています。
「では、会長からお願いします」
この真面目そうな少女はリョウカと同じ学年の、生徒会会計アキホ・レイオル。メガネをかけていて、薄緑色の髪を三つ編みにしています。
「えー」
「何か不満でもありますか?」
「そっちの新入生ちゃんからがいいよー」
そう言われてみんなの視線を一身に受けている少女は、今年から生徒会庶務として働いてくれることになった、ハルカ・イリアル。スポーツ娘といった見た目で、ショートの茶髪が特徴的な少女です。
「は、はい、わかりました」
「焦らないで、落ち着いてで大丈夫ですわ」
リョウカに励まされて深呼吸をするハルカ。
「ハルカ・イリアルです。よろしくお願いしましゅ」
「噛んだよね」
「あらあら、噛んじゃいましたね」
「噛んでしまわれましたね」
「皆さん! あまりそういうことは言わないで下さい!」
ハルカの顔はすでに真っ赤で、茹で蛸のようです。まあ、この世界に茹で蛸あるか分からないですけど。
「みんな、今年一年よろしくね」
私が言ったのを皮切りに、
「よろしくー」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますわ」
「よろしくお願い致します」
「よ、よろしくです」
こうして私の一日は過ぎていきます。
私は御劔 悠。六年前に、この世界に来た元日本人で、今は魔導学園の戦闘指導官にして、生徒会顧問。子どもたちと過ごすのが何よりも好きなただの一人の母親です。
説明長くてすみません




