神使(Divine messenger)
スー族の戦士たちも参加する、といいだした。それをきいたニックは即座に反対した。
その実力を疑ってのことではない。スー族だから、だ。
いまやこの国の政府はこの大陸に古より住んでいる民をことごとく追い払おうとしていた。共存や懐柔、ではない。後、さまざまな悲劇や差別を生んでゆく黒歴史の始まりだ。
無論、今回は政府が相手ではない。それどころかその対にある組織といってもいい。だが、この後どうなるかわからない。なぜなら、政府と悪は切っても切れない腐れ縁だからだ。ゆえにすぐさま反対した。
『ならば変装しよう。皆と同じ格好をし、帽子を被ろう。それならばわからないはずだ。悪しき精霊がうようよしている。わたしたちも大精霊とともに戦おう』
呪術師のイスカとその相棒のワパシャにいわれれば断る理由はない。それに二人の射撃の腕前は狙撃手のスタンリーにひけをとらないことも事実。戦力は一人でも多いほうがいい。
市村と玉置は土方や師匠からいつ「残っていろ」といわれるかと戦々恐々としていたようだが作戦会議に参加を許され、その席でちゃんと戦力に加えられていることを知ってほっとするとともに喜んだ。
戦うことにではない。戦力として認められているということにだ。
「殺さず」に変更はない。同時に「深入りしない」ということも強調された。無論、「鬼の副長」からだ。
「すこしでも不利だと悟ったらとっとと尻まくって逃げやがれ、いいな?」
新撰組では考えられない指示だ。そこでは敵に背を向けること自体が悪だった。背に傷を負えばたとえその戦いに勝ったとしても切腹だった。
向こう傷は許されても後ろ傷はご法度。これはなにも新撰組においてだけではない。戦国時代からある武士の精神なのだ。
それをあっさりと覆したのだ。だが、それは武士の信念や道を捨てるわけではない。ときには逃げることも必要だからだ。生き残ってこそ、傷つかないことこそ勝利に繋がる。先の戦でそのことをだれもが体験し実感した。
殺すことが物事の解決に繋がるわけではない。そして、死んでしまってはなんにもならない。
「決行の準備が整うまで若い方「三馬鹿」には太刀の峰打ちと小刀の扱いと体術をしっかり学んでもらう。他の者も小刀と体術の稽古をしてもらう。異国人は体躯がでかい。相手の戦意を挫くだけの技を身につけてくれ」
「はーい。で、「豊玉宗匠」も身につけるんでしょうね?」「あぁ?総司、当たり前だ。いっとくが、おれの妻も義兄も甥も息子も小刀・体術、どちらも凄いぞ」
「そんなことだれでもわかってますよ」沖田が呆れたように返すと、市村や玉置がくすくすと笑いはじめた。
「お褒め頂きありがとう、だが、それで鍛錬が軽減されるものでもないことを全員の前ではっきり表明しておこう。なぜなら柳生の剣は公平かつ無慈悲だからだ」厳蕃の暗黒の呟きに即座に反応したのはその甥だ。
「ああ神様!」 『またしてもその神か、わが子よ?系統の違う神はやめておけ。祈るだけ無駄だ』それに反応する育ての親。
「オーディン?」『それも系統が違うっ!遠き北の国の神々の王のことだ』
「そんなに遠い神でなくていいんだ、息子よ」「大神っ、父上?」「ああ、それで充分だ息子よ」土方は足許にまとわりつくわが子を抱き上げると力いっぱい抱きしめた。
「なにそれ、結局わが子に依存するわけですか「豊玉宗匠」?」「だめな親父だな、まったく」沖田につづいて藤堂の酷評で今度は仲間たち全員に笑いがおこった。
仲間たちの愉しそうな笑い声をききながら、土方は自身にいいきかせるのであった。
「鬼の副長」の威厳と引き換えに仲間たちに安らぎと笑いをもたらしている、と。
「父上偉い!」にっこり笑ってみあげるわが子は、大神というよりかは異国人たちからきいた天使のようだとつくづく思った。




