『All is well that ends well.』
「ねぇ、日の本の漢ってほんっとに面倒くさいわね」
叫ぶなり、ケイトが飛びだした。土方と辰巳の間に。
「この子、嘘をついてたわけじゃないでしょ?」
漢も顔負けのおおきく分厚い掌が、辰巳を示す。
「だいたい、トシやシンパチだって、疑ってうじうじ悩んでたでしょ?なんできかないの?はっきりきけばよかったのよ。それで嘘をついたんなら、くそったれ野郎だけど」
土方の相貌を、わずかに腰をかがめ、相貌をのぞきこむケイト。
幾人もが、その身長差に気がついたとしても、さすがにだまっている。
「『All is well that ends well.』よね?そうでしょう?」
が、土方は視線もあわせず、無言である。
「ウイリアム・シェイクスピアの戯曲。「おわりよければ、すべてよし」」
辰巳が呟く。
「へー、さすが「竜騎士」ね。そんなことはどうでもいい。さぁっ、あらためて挨拶なさいよ、おたがい」
いうなり、土方の腕をつかみ、辰巳のもとへひっぱってゆく。
そのすさまじい膂力に、土方はされるがままであるし、周囲はただ呆然とみている。
「じれったいわね、もうっ。トシッ、はやく抱きしめてあげなさい。それから、タツミッ、あなたも四の五のいわず、素直に甘えなさい。謙遜や遠慮が美徳っていうのはわかるけど、はっきりといわなきゃ、わからないことだってあるの。よむよまないの問題じゃない。言の葉にするほうが、いいことだってあるの。行動のほうが、効果的なことがあるの」
土方の背を、力いっぱい押すケイト。
突き飛ばされた土方の体躯は、反射的に両の腕をのばした辰巳に受け止められる。
ケイトのいうほど、単純なものではない。ましてや、わりきれるものではない。
民族性、文化の違い、はたしかにある。
だが、これはかような簡単なことではない。
しかし、きっかけにはなる。
精神、行動、ともに。
それは、土方と辰巳双方のみにおいてのことではない。
この場にいる全員に、等しく訪れたもの・・・。
「くっそー、坊っ!なにゆえ、もっとはやくいってくれなかったんだよ。なぁ、覚えてるか?蝦夷で別れるとき、一緒に素振りしようっていったよな?」
市村である。
一番能天気でなにごとにもこだわらぬ。
ある意味では、空気をよまぬ市村の、この一言もきっかけの一つとなる。
そうなると、ほかの二人も負けてはいない。
「坊っ、生まれかわってもちっちゃいのはかわらないんだ。いつも気にしてたけど、坊はちっちゃくなくっちゃ」
玉置の、なんの悪気のない言。
「良三っ、失礼じゃないか。ちっちゃいのはきっと、血筋なんだよ。ほら、師匠や厳周兄だってちっちゃいし」
さらに、田村のなんの悪気のない言。
しかも、一族まで巻き込んで・・・。
若い方の「三馬鹿」は、そろって辰巳に駆けよろうとする。
「まてまて、おまえたち」
そのまえに立ちはだかるは、伊庭である。
「順番だ。しばしまて」
目顔で土方や永倉らを示し、小声でたしなめる。
「「豊玉宗匠」、なんとかいってください。でないと、みな、このまま突っ立ってどうしていいのかわからぬでしょう?」
沖田は、土方の背後にちかづくと、これみよがしに伝える。
「くそっ!」
土方が呟く。
いまだ衝撃さめやらぬ。それでも、掌をのばすと辰巳の後頭部にまわし、自身の胸元へとあらっぽくひきよせる。
「おれは兎も角、みなをだましてやがって・・・。親として、責任とらねばならぬだろうが・・・」
震える声音で呟く。
「おかえり、坊・・・。案ずるな、昔から、おめぇは息子みたいなもんだった。なんらかわりはねぇよ」
しっかりとちいさな体躯を抱きしめ、囁く。
胸ははりさけそうだが、不思議と涙はでぬ。
うれしさが勝っているのだから・・・。