告白
「かれらのゆく末を、み護るまでもない。みな、すでにわかっているであろう?このなかのくそったれの神どもの仕業かどうかはわからぬが、兎に角、事態は好転することはない。それどころか、ますます悪化する。かれらは、破滅よりかは臣従を選ぶよりほかないであろう」
厳蕃があとを継ぐ。
せっかく淹れたからと、相馬が珈琲のはいったカップをさしだす。
土方も厳蕃もそれをうけとり、ほぼ無意識のうちになかのどろどろした液体を喉に流しこむ。
「ならば、いったいいずこへ?」
まだ、なんの考えも浮かばぬ。
それどころか、いまの話をまだ理解できぬ。
「亜米利加よりでたほうがよさそうだ。いまや、われらはインディアンたちと同様、騎兵隊にとっては「憎き敵」であるからな」
厳蕃は息子を、ついで土方を、さらには全員に視線を送る。
「紐育へ戻り、ニックの船で欧州にゆけば?ヴィトに会いにいけばいい」
厳蕃と視線があうと、田村が提案する。
ヴィトは、一行がまだ亜米利加に渡ってきたばかりの時期に知り合ったドン・サンティスの孫である。
マフィアのボスの後継者として、本拠地シシリア島にいるはずである。
「そうだな。欧州に渡れば、大陸つづきに幾つもの国々を巡ることができる」
とは、野村である。
「だったら、加奈陀は?すぐそこよ」
とは、ケイト。
藤堂のように、両の腕を頭のうしろにまわし、呑気な調子である。
「南はどうですか?ジャングルがあったり、大昔の遺跡があると、イスカが教えてくれました」
とは、玉置。
「氷の大地もあるらしいですよ。そこに人間はいなくって、白い熊や飛べない鳥がいるって・・・。空から垂れ下がる光のカーテンもみれるって」
とは、ふたたび田村。
すっかり旅行気分である。
しかも、最後の田村の案は、南極にいっていったいどうしようというのか?
若い連中のほうが、ある意味では前向きである。
「亜米利加からでてゆき、世界を旅してまわるってか?」
「いいんじゃないですか、新八さん?傭兵ってやつをやっても。それで食べてゆける」
「馬鹿いうなよ、総司。おれたちは、一生戦いつづけなきゃならねぇ」
「左之さんのいうとおりだ。人殺しなど、喰ってゆくためにするものではなかろう?」
「一君のいうとおりだよな。おれたちは、そんなために生きてるわけじゃないし」
「ほう、平助のわりにはまともなこと申すのだな」
「八郎君、きみ、失礼じゃないか?」
永倉、沖田、原田、斎藤、藤堂、伊庭といった中堅どころである。
そんな仲間たちの意見をききながら、土方はなにゆえか集中できないでいる。
自身の息子は、まだ核心をついていなことを、なにゆえか感じているからである。
「てめぇら、だまってやがれ。そのことについちゃぁ、浅慮は禁物。あとまわしだ。それよりも、息子よ、いいたいことはそれだけじゃあるまい?」
土方の言で、ぴたりと静まる。
全員が、土方の息子へ視線を向ける。
生真面目な表情である。
形のいい口唇がひらきかけたが、とじられる。それが幾度か繰り返される。
みな、辛抱強くまっている。父親も含め。
『いいにくいようであれば・・・』
白き巨狼の思念である。
それを、ちいさく分厚い掌で拒否する少年。
「父さん、大丈夫です。わたしが告げなければならぬこと』
島田は、その少年を勇気づけるかのように、肩に掌を置く。
「わたしは、父上を含めました全員に、謝罪せねばなりませぬ。許しを乞わねばなりませぬ」
そこで、言を止める。
土方と視線を合わせておれず、それを乾いた大地に落とす。
そして、意を決したように、その場で片膝つく。
「この十年、おれはあなたを欺いていました、わが主よ」
面を伏せ、静かに告げた。
朝陽は、すでに大地を焼いている。
太陽が沈黙と人間とを焦がす。
騎馬たちですら、息をひそめている。




