進言
合流すると、厳蕃と少年は下馬する。
仲間たちがひとところに集まり、それを出迎える。
「無事だったか?追手の気が遠ざかってゆくので、うまくやりおおせてくれたと思っているが」
厳蕃は開口一番、全員の無事をたしかめる。
「なにせ、新撰組にはできる兵法家が幾人もおりますので」
土方は、厳蕃と握手しながら応じる。
「こちらも首尾は上々じゃ」
「さようさよう、こやつらがやってくるまでに、さくっと遊んでやったからの」
鞍上で血の色と闇の色の羽根飾りを踊らせつつ、「偉大なる呪術師」たちが、日の本の言の葉で告げる。
「一族の力は強大じゃ」
「さようさよう、いかなる神にも人間にも負けぬぞ」
快活に笑う「偉大なる呪術師」たち。
「一族などと申すなっ!」、という厳蕃の叫びを全員がまつ。
が、厳蕃は眉間に皺をよせたまま黙している。
「話がございます」
「なに?いま、か?まさか、またなにかしでかしたのではなかろうな・・・」
突如、息子がいいだすものだから、土方は狼狽する。
義兄上の様子がおかしいのはその為か、と見当をつける。
「あなた・・・」
その土方に、信江が寄り添う。
すでに自身らの息子が語る内容を、よんでいるからである。
そして、厳周も。
厳周は、父親にさりげなく寄り添う。
『まてまて・・・』
思念と同時に、白き巨狼が土方とその息子の間に飛びだす。
『すまぬが、おぬしらはさきにパインリッジに向かってくれぬか?』
鼻面を「偉大なる呪術師」たちへと向け、思念を送る。
「なにゆえだ?ともにいたところで、減るものでもあるまい?」
「さようさよう、おとなしくしておる。べつにかまわぬであろう?」
即座に拒否する呪術師たち。
『プリーズ』
依頼のわりには、恫喝めいた思念。
「わかったわかった。なれば、さきにゆこう」
「まったく、老いさきみじかい年寄りをいたぶって、なにが面白いのかのう?」
『とっととゆけいっ!』
ついに、白き巨狼がきれる。
おおきな口吻をひらけ、ぎらぎらとした牙を閃かせる。
刹那、「偉大なる呪術師」たちの騎馬が駆けだす。
そして、あっという間にみえなくなってしまった。
『これで、邪魔者は消えた』
にんまりと笑う白き巨狼。
島田もまた、これから起こることを直感している。
なにゆえいま、この機なのか?
疑問はあれと、真実を告げることに反対はない。そもそも、だましおおせるものではないのだ。
心情的にも道徳的にも。
ゆえに、そっと、というわけにはゆかぬが、少年にちかづく。
「まずは、この地より早々に去ることを進言いたします」
少年は島田をうしろに従え、そうきりだす。
土方夫婦、つまり両親と遠間の距離を置いて。
だが、瞳は父親のそれをしっかりみつめている。
「去る?」
土方だけではない。幾人かがおなじ言の葉を呟く。
当惑するのも当然であろう。
少年は、厳蕃に説明したこととおなじことを語ってきかせる。
さらには、「偉大なる呪術師」たちの勧めの言も添えて。
突然のなりゆきに、だれもが困惑と動揺を隠せないでいる。




