よき理解者
島田は、すべて心得ている。
京にいた時分より、島田は永倉よりも土方のことがわかっていた。永倉も、それがわかっているがゆえに、江戸で袂をわかつ際に土方を託したのである。
以降、島田はずっと一緒だ。そして、土方のよき相談相手である。
此度の件も、土方に呼びだされたときに、土方の望みがすぐにわかった。ゆえに、みなまでいわせぬ。
「厳周は?よろしいのですか?」
土方の迷いもわかっている。ゆえに、そう尋ねる。
そうすることで、土方になにかしらのきっかけ、あるいは判断にいたる材料を与えられるやもしれぬから。
「ああ・・・」
土方は、カップを傾けた。
まずい液体が喉をやく。酒精とはちがう意味でのまずさである。だが、このまずい液体も、いまではなくてはならぬものの一つ。
カフェインは、土方にとって依存性のある薬のようなものだ。
「義兄上は、口では帰国させたいとおっしゃっている」
「でしょうな・・・」
島田は、さもありなんと一つ頷く。
厳周は当主である。尾張柳生の当主が、いついつまでも家をあけておくわけにもいかぬであろう。
「当人とは話をしていないが、先日、新八らと雑談しているのをきいていると、まだまだおれたちといたいという気持ちのほうが、おおきいであろう。だが・・・」
「ええ、かれはもともと新撰組とは関係ありませんし、なにより流派と家を護るという責を負っています。本来なら、父親が申すべきことなのでしょうが、かえって逆効果であることもわかっております。かと申して、いまの機で日の本にかえれということに、あなたから命じられても了承せぬでしょう」
土方は島田の単調な意見をききながら、さらにどろどろの液体を喉に流し込む。
「それに、あなたも手放したくなさそうだ、副長?」
土方は、目玉をぐるりとまわしてみせた。
それは、白人が「あきれた」ときにするジェスチャーである。
「くそっ、あいかわらずおれのことはおみとおしだな、島田?」
あいているほうの掌で、島田のがっしりとした肩を叩く。
「そうだな。身勝手だが、いましばらくは尾張柳生から当主を借りておくとしよう。だが、万が一にもケイトが紐育を気にいるようなことがあれば・・・」
「承知いたしました。そのときには、子どもらも置くことになりますな。その逆もしかり、ですが」
「すまねぇな、いつも」
「慣れておりますよ、副長」
二人は、苦笑しながら互いの拳を軽く打ち合わせる。
ジム、島田、山崎、伊庭、相馬、野村、市村、田村、玉置、ケイト、スタンリー、フランクは、早朝、スー族の部落に別れを告げ、まずは市俄古へと旅立っていった。




