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鬼の神使いーインディアンと騎兵隊と武士(さむらい)の戦記― 続武士大神(もののふおおかみ)  作者: ぽんた


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機微と試合終了

「ケイトは、まさか丞兄までこてんぱんにやっつけるつもりじゃないだろうな?」

「ええっ?副長のように?」

 木箱に座し、野村と相馬がこそこそといいあっている。

 それを、バットを片掌に戻ってきた土方がききとがめる。


 二人のまえに立ち、眉間に皺をよせる。


「まちやがれっ!副長のようにってどういう料簡だ、ええ?おれがこてんぱんにやっつけられただと?おれだってな・・・」

「すみません、副長。二人とも意趣があるわけではありませぬ」

 そこに、世話女房の島田がやってきた。

 右の拳で、軽く二人の頭をこづく。


「副長、申し訳ありません。いえ、なにも副長のことを、っていうわけでは・・・」

「主計の申すとおりです。わたしたちは、丞兄のことを申したかっただけでして・・・」

 相馬も野村もしどろもどろである。


 土方は、あらためて視線打席バッターボックスの山崎のほうへと向ける。


「どういう意味だ?」

 それから、ぽつりときいた。

「はい?」

 相馬と野村だけでなく、島田も叫んでしまう。


「なにかあるのか?」

「はぁ?」

 つづけられた問いに、ふたたびトリオで叫ぶ。


 副長は、まさか気がついていない?


 そういえば、厳周のことも気がついていなかったらしいし・・・。


 鈍感なのか?

 それとも女子おなご好きは、えてしてほかのおとこのことには興味がないのか・・・。


 三人があらゆる意味で驚いているなか、土方の眉間にさらに皺がよる。


『まったく、わが主にも困ったものだ。みな、気がついておるというのに・・・。わが主は、自身が女子おなごに助兵衛なことをすることしか頭にないようだ。というよりかは、世の女子おなごはみな、自身にぞっこんなのだと、勘違いもはなはだしいというわけであるな』


「なんだと、壬生狼っ!」

 新撰組の人間ものなら、否、まともな人間ひとなら、けっして口外も心中で考えることもできぬことを、思念で送ってくる白き狼。


「副長、陥穽に陥ります。落ち着いてください」

 島田がとめに入ったところで、歓声があがった。


 頭脳選手プレイヤーであり、器用でもある山崎は、ケイトの速球を無理せずバントであてにいった。意表をつかれたケイトは捕球からの送球がまにあわず、山崎は一塁ファーストにでた。 


 一塁ファーストで笑顔をみせる山崎。


 土方は、それをみて(ほう・・・)と思った。


 あんな笑顔、みたことがあったか?、とも。


 だが、よくみると笑顔の向くさきには・・・。


「なんと・・・」

「副長、やっとお気づきに?」

 島田に声をかけられ、土方は両の肩をすくめる。


 二枚目の相貌には苦笑が・・・。


「おれはどうも、こういう類の機微には鈍いらしい」

 その言に、島田もまた苦笑を浮かべる。

副長あなたらしいと申せば副長あなたらしいのでしょう。たしかに、副長あなたが気にするのは、仲間われわれの生活面にあらず、ですから」

「おいおい・・・。とはいえ、甥っ子のことすら気がついていなかったとは・・・。おれもまだまだってところか、ええ?」

 島田のさらなる苦笑。


 そのとき、また歓声がおこった。


 土方自身の息子が、ケイトの二球目をとらえた。打球は、上空を舞う朱雀と桜よりも高く、そして、ついにみえなくなってしまった。


 大本塁打ホームラン


 これで、勝敗は決した。


 残念ながら、チームは負けたが、ジムは大満足だ。


 心から、満足した。


 スー族の人々も愉しんでくれたようだ。


 白人の侵略にたいしては憤っているものの、その文化や宗教を頭ごなしに否定するわけではない。無論、文化も宗教も、侵略者側が懐柔する為に強要したり洗脳したりということはあろう。


 だが、すくなくとも野球ベースボールに関しては、そのかぎりではない。黒人のジムもであるが、伝えたのは異国の肌の色の異なる人間ひとたちだからだ。

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