恋は盲目
『ようみえなんだが・・・。ストライクかのう、アウチマン?』
『ようみえなんだが・・・。ストライクだろうのう、アウカマン?』
主神たちの判定。その当惑の声音で、ジムはやっとわれにかえった。
『なんてこった!』
痛い痛いと呟きながら、島田が掌中にある球をかかげてみせた。
なんと、潰れてしまっている。
そして、左の掌からミットがはずされた。おおきく分厚い掌が、真っ赤になっている。
島田もジムも、それらを呆然とみつめる。
「ひえええ、なんだありゃ?もしかしてうちなるものの力?」
藤堂の日の本の言の葉による叫びに、周囲の者たちは一様に両の肩をすくめる。
スー族の戦士たちも、かれらの言の葉でなにやら叫んでいる。
もっとも、その内容はおなじ類のものであろうが。
「おいっみたか厳周?あ、もしかしておまえら、このまえの修行で野球までやってたんじゃないだろうな?」
「そんなわけはありませぬ、八郎兄・・・」
「そうよね、厳周?ちゃんと真面目に剣術の修行に励んだのでしょう?」
伊庭の問いに、厳周が気弱な笑みとともに応じるのにかぶせ、ケイトが叫ぶ。
「たしかに、速度はすごいかもしれないけど、厳周のほうがずっとすごいわよ。ねぇ、厳周」
「いやケイト、そういうのを「あばたもえくぼ」っていうんだ」
厳周の肩をもつケイトが、厳周の腕に自身の腕を巻きつけながら断言した。それにすかさず市村が茶々を入れる。
「あばたもえくぼ?どういう意味なの、テツ兄さん?」
「恋は盲目がちかいかな?」
言の葉の師匠である沖田が教えてやった。
「もうっ、やだー」
相貌を真っ赤にそめ、恥ずかしがるケイト。あいているほうの掌で、沖田の肩をぱんぱん叩いている。
沖田の眉間に、土方ばりの皺がよった。
昔、まったくおなじ叩き方をする漢がいた。それを思いだしたのである。
「いや、それは違うと思うぞ、総司」
それをよんだ藤堂が突っ込む。
沖田はすでにその漢との思いでのなかにひたっている。
「似てるのは馬鹿力だけだ。局長のは、そうだなぁ、なんていうか愛情こもってるってのか?元気をくれるってのか?そんな感じだ、ただの馬鹿力じゃない」
「なんですって、平助兄さん?わたしのどこが馬鹿力っていうの?」
よんだのは藤堂だけではない。ケイトも同様だ。
「可憐な女性に失礼なこといわないで」
ケイトは、神速の拳を突きだした。
それは、避けることままならぬまま、藤堂の鳩尾に入った。
「ぐううう」
「平助兄っ」
「おい平助っ」
その場にがくりと両の膝を折った藤堂を、市村と伊庭が慌てて介抱してやる。
「近藤さん、わたしたちは、元気で馬鹿やってますよ」
沖田は一人、青い空をみ上げ呟いた。
剣術の師匠というよりかは、育ての親たる近藤の笑顔が、青い空にみえたような気がした。
「馬鹿は、わたし以外ですけどね」
沖田はさらに呟きながら、筋肉のついた両の肩をすくめたのだった。
近藤も、きっとあの世で笑いながら野球観戦をしているであろう。




