因縁の対決(ベースボール編)
一回の裏、厳周はなんなく三者三振をとった。
そして、二回の表、相馬もまたなんなく三者三振をとる。
迎える二回の裏。四番は永倉。厳蕃とは組がわかれてしまったため、四番打者として挑むことになったのである。
『シンパチ、打つ気満々ですね』
マスク越しにみ上げ、ジムが声をかける。
そこにはじつに爽やかな笑顔が浮かんでいるが、永倉には白い歯が陽光を受けて輝いているのしかみえぬ。
『ああ、満々さ。おれはいつだってそうさ。全力投球、否、全力打撃ってか?否、やるだけってやつだな』
永倉は陽にやけた相貌に不敵な笑みをたたえ、ジムをみる。
『おまえもであろう、ジム?』
『もちろん。ならば、遠慮はいりませんね』
『無論。いるものか』
そして、颯爽とバットを構える。
マウンド上の厳周がジムの指示を受け、かすかに相貌を上下させて了承する。
ゆっくりと両の腕を天へと上げ、同時に左の太腿もあげる。
腰を落とし、厳周の上手投げの剛速球に備える永倉。その両の瞳は、球の縫い目までをもみきわめてやろうとひんむかれている。
その集中力はすさまじいまでのものがあり、鬼気迫るとはまさしくこのことかとさえ感じられる。
球が掌から離れると同時に、バットを振りきらねばならぬ。
厳周の剛速球は、それほど速い。
その機にあわせ、永倉はバットを振った。
「なにいっ!」
だが、厳周の掌から球は離れていない。それどころか、まだ投球型のただなかだ。
なんと、横手投げにかわっている。しかも、腰を落とし、球を握る右の掌は地をなめるほど沈んでいる。
永倉は、完全に機をはずされた。
『ストライクッ!』
球は、曲線を描きつつ振りかぶられたバットの下をかいくぐり、ジムのミットにおさまった。
「くそっ!してやられた」
永倉の悔しげな怒声が四方八方に響き渡る。
二球目、永倉の構えがかわった。
どうでてくるか予想がつかず、よむこともできず、迷いが生じている。
「おかしな話だよね。なにゆえ、よまぬのであろう?厳周は兎も角、ジムをよむことはできるはずなのに」
ベンチがわりの木箱に座す沖田は、そういって笑う。
「そういや、おれもよまないな。そんなこと思いつきもしなかった」
藤堂がいうと、みな、一様に頷く。
不可思議な話である。
厳周は、横手投げだけでなく下手投げまで繰りだす。
しかも、ボールも織り交ぜ、永倉を翻弄する。
結局、二人の一度目の対決は、スリーボールからの三振で決着がついた。
選手を交代しながら回を重ね、1対0でチームスタンリーの1点リードで9回を迎えた。
投手も、相馬から原田へ、スー族の戦士へと繋いでいる。
迎える打者は、ジム。
投手交代・・・。
フランクの宣言に、チームスタンリーの選手たちは一様に眉を顰める。
いったい、だれが投げるというのか・・・。
そして、マウンドに飛びだしてきたちいさな選手をみ、さらに眉を顰めたのはいうまでもない。
そう、最年少にして最小の選手の登板であるから・・・。