表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

498/526

ジムの大本塁打

 二番の市村は、慣れぬ下手投げアンダースローにひっかかってしまい、凡打フライにたおれた。


 つづく三番は原田である。


 原田は、こうみえても器用である。

 一球目から横手投げサイドスローであったが、それを器用にあてる。それが三塁サードがわへのファールボールとなりかけたのを、一陣の風が吹きフェアとなる。


 その間に、一塁ファーストに滑り込む原田。


 誠に幸運ラッキー安打ヒットといえよう。


 そして、むかえるは四番のジム。


 ずっとつかっているバットを、二度三度と振りまわスイングする。


「ビュオッ、ビュオッ」

 真剣が空気を斬り裂くがごとく、鋭い音がする。


『タイム』

 その様子をみていた島田は、背後に立つ審判に申しでる。


『いやじゃ。はようせい』

 審判二人はそれぞれの皺首の上で血の色と闇の色の羽根飾りを踊らせつつ、同時に拒否する。


『ことわるでない。当然の権利だっ!!』

 呆れ返った思念は、無論、白き巨狼だ。


 控え選手プレイヤーたちの間を、いったりきたりしている。


『なんと、試合プレイ中によからぬ相談か?』

『いやいや、息抜きのお喋りではいのか?まるでビッチだな?』


 いまのはまずい。

 全世界の女性レイディースを敵にまわしたようなものであろう。


 スー族の女性レイディースたちの無表情・・・。


 笑顔がこわばる信江・・・。


「なんなのあのじー様?」と、神をも畏れぬケイト・・・。


 あらゆる意味で、畏れ慄くおとこたち・・・。


「主計、いかがいたす?」

 島田は、苦笑しながらマウンド上の相馬に駆け寄る。

 ミットで口許を隠し、打診する。


 とはいえ、同郷の選手たちにたいして、それは意味をなさぬが。


「打たせましょう、といいたいところですが。打たせれば、もっていかれるでしょうね」

 相馬もまた手袋グローブで口許を隠し、視線を遠い空へと向ける。


 そこには、朱雀と桜が円を描きつつ舞っている。


 すなわち、バットにあたれば、確実に本塁打ホームランになるといいたいのである。


「主計、かまわねぇ。勝負しろ。逃げるのはご法度だ。昔から、新撰組うちはそうであろう、ええ?結果はいとわねぇ。勝負することに意義がある。たとえ殺られても、うちの打者バッターが仇を討ってくれる。ゆえに、主計、やってやれ。新撰組うちの局長の一人の腕前をみせてやれ」

 三塁サードを護る土方からの、ありがたい助言アドバイスである。


 殺るとか仇討ちとか、土方らしいといえばそうであろうが、野球ベースボールも生死をかけた運動スポーツとなりはてている。


「よし、主計。副長命令だ。迷うな、やってやれ」

「承知」

 島田は相馬の肩を大きな掌で叩くと、戻る。


 島田は、マスクをかぶりなおすと上目遣いにジムの相貌かおをみる。

 打つ気満々である。


 かならずや打つであろう。


 ジムは、ただの強打者スラッガーではない。

 バットを、ぶんぶんと振りまわすだけでは・・・。

 たとえば、永倉くみちょうのごとく・・・。


 慎重に投手あいてをよみにゆく。様子をみ、感じ、推測して振る。


 おそらく、自身らとの付き合いのなかで、自然と身についてしまったのであろう。


 いや、なにも永倉くみちょうがよまぬというわけではない。駆け引きが面倒なのである。

 剣術においては、それをせずとも身についてしまっている。類まれな野生の気質で、動けるのである。そして、野球ベースボールについても、ある程度は動くことができる。


 島田は、腹をくくった。そして、決断する。


 一球目。相馬は、横手投げサイドワンダーである。

 この投球が一番慣れておらぬであろう、とふんだのである。

 これまでの勝負から、一球目は様子をみてくる、と踏む。


「かんっ!」

 バットの芯が、ボールをとらえた小気味よい音が響く。


「くそっ!」

 島田は、マスクを外しながら立ち上がる。


 自身の迂闊さを呪いながら・・・。


 ボールは、みる間に青い空へと消えてしまう。


 初打席、大本塁打ホームラン

 

 ジムは、大歓声とともにダイアモンドをまわる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ