プレイボール!!
選手を総入れ替えとはいえ、厳周とジム、相馬と島田の夫婦はかわらぬ。
残りの選手で入れ替えである。
守備につく選手の数はかぎられている。ゆえに、交代で出場する。
みな、尋常ではないほどはりきっている。かつ、燃えに燃えている。
『なんなのこれ?戦闘よりも真剣ってどういうことなのかしら?やはり漢どもって、馬鹿よねーっ』
ケイトは、その興奮ぶりを冷静に批評する。
ウイカサとチカラ姉妹も、応援にきてくれている。
その二人には、信江とケイトが交代で実況するつもりである。
『さぁ野郎どもっ!やるぞ』
フランクの気合で、チーム・フランクの選手たちが戦いのまえの雄叫びをあげる。
『やっつけてやれっ!』
そして、スタンリーの気合。
チーム・スタンリーの選手たちから同意の叫びがあがる。
『試合開始!』
主審は、二人でやるという。
無論、「偉大なる呪術師」たちである。
二神がみている。
いかなるごまかし、ずるはできぬであろう。
『主計っ、いけいけっ!相手は素人だ。器用なところをみせつけてやれ』
チーム・スタンリーの先発は相馬だ。此度、相馬は上手投げ、下手投げ、横手投げをひっさげての登板である。
恋女房は、無論島田。
『いけいけ、クレイジー・ホース!盗むのは馬だけじゃないってところ、みせてやれ』
打席に入ったのは、チーム・フランクの一番打者にして一塁手のクレイジー・ホースである。
頭の上の血の色の羽飾りが踊っている。そして、当人もバットをまるで短槍のごとく振りまわしつつ踊っている。
『なにをやっておる、タシュンケ・ウィトコ、さっさとせい』
血の色の羽飾りのほうの「偉大なる呪術師」が怒鳴る。
タシュンケ・ウィトコとは、クレイジーホースの血筋が受け継ぐ名である。
『さよう、陽が暮れてしまうわいっ』
そして、闇の色の羽飾りのほうの「偉大なる呪術師」もまた、不機嫌そうに怒鳴る。
「年寄りは、気がみじこうていかぬな」
これみよがしに嫌味を叩きつけるのは、厳蕃以外におらぬであろう。
控え席がわりの木箱に座し、左右の選手たちに笑いながら話しかけている。
だが、同郷の選手たちも亜米利加の選手たちも、ひきつった笑みを浮かべるのみである。
スー族の戦士たちは、「偉大なる呪術師」を文字通り神のごとく崇拝しているし、日の本の者は違う意味で神の御業を怖れている。
『ストライクッ!』
一球目、相馬は横手投げで決めた。
『ストライクッ!』
二球目。おつぎは下手投げである。
これでクレイジーホースはあとがなくなった。
視線だけはマウンドの相馬をじっとみつめ、しずかにバットを構えている。
三球目、相馬はおおきくふりかぶる。上手投げだ。厳周ほどではないにしろ、速球がきわどい角度をついてくる。
クレイジーホースは、これをまっていたとばかりに、バットを大回転した。
「カツン」
小気味よい音とともに、打球が空へと飛んでゆく。
『センターッ!!』
マスクをはずしながら立ち上がり、打球の行方をよんだ島田が指示する。
センターを護るスー族の小柄な戦士が、全速力する。
打球は、ゆっくりと弧を描きつつ、引力によって地上へひきよせられてゆく。
小柄な戦士は落下地点を予測し、そこへ顔面から突っ込んでいった。
みな、固唾を呑んでみ護る。
が、わずか数インチ足らぬ。グローブの先端に打球が当たった。球が地につけばヒットだ。
クレイジーホースは、俊足を活かし、すでに三塁をまわっている。
『ヒャッホー!』
そこへ、脚から滑りこんできたのが藤堂である。
いままさしく大地に接吻しようとする球を、グローブで救いあげるようにして捕球、おなじように駆けつけてきたライトの野村に投げ、うけとめた野村は、本塁を護る島田へと送る。
『アウトッ!』
三塁線上で、その様子を茫然とみつめているクレイジーホース。
島田はゆっくりとちかよると、念の為、球を握ったミットでかれの右の腕をぽんと叩いた。




