表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

496/526

男親と子どもたち

 厳蕃は若い方のヤング「三馬鹿」にたいしても、ずいぶんと甘くやさしい。


 それは、子どもたちだからというわけではない。誠の子か、あるいは甥っ子のように接している。


 実子である厳周や甥である辰巳や勇景にたいしてよりも、父親や叔父を感じることすらある。


 情が深いのか、あるいはほかに理由わけがあるのか・・・。


義兄上あにうえ、ケイトはずっと監禁状態で、いまもここしかしりません。しかも特殊な環境エクストラディナリー・シチュエーションです。今後の為にも、一度はみさせておくのもいいかもしれませぬ。そして、万が一にも正常な世界ユージュアル・シチュエーションが気に入ったら・・・」

 土方は、義理の兄の肩に掌を置く。


 誠に華奢な肩だ、とあらためて感じる。


「だめだだめだ、あのはなんだかんだと申しても、世間をしらぬ。あのは、農場での地獄か、ここのことしかしらぬしみておらぬ。気が強かろうが武術に長けていようが、しょせんは女子おなごだ。われわれのまえでは非力にちかい」

 厳蕃は、土方のをみすえかたくなにいいはる。しかも、最後のほうはかぎりなく声量を落として。


「なればこそです、義兄上あにうえ

 土方の驚きはとまらない。


 厳蕃自身の妹、つまり、信江にたいしてもこんな具合だったのだろうか・・・。

 信江の世界はさらに狭い。否、世界という表現すら成り立たぬ。


「厳周や信江も含めてわれわれになにかあったとき、かのじょ一人でどう生きてゆくのです?その為にも、いまのうちにここ以外の世界があることを、ここに縛られる必要のないことを、しらしめるべきではないでしょうか?」


 土方は、厳蕃のを覗き込みつつ、いいようのえぬ違和感に襲われた。


 いままでにない違和感・・・。


精神こころの傷は癒えると思うか、義弟おとうとよ」

 穏やかに問われ、土方ははっとした。


精神こころの傷・・・?」

 無意識のうちに、口中で繰り返してしまう。


時間ときが経てば薄れもしよう。が、完全に癒され、忘れ去れると思うか?」

「それは・・・」

 土方は絶句した。自身になぞらえてしまう。


「あのは強い。信江は同性ゆえべつにしても、本来ならば息子以外のおとこに恐怖心を抱いてもおかしくなかった。だが、かのじょはだれにたいしても表面上はふつうだ」

「表面上?じつは違うと?」

 山崎は、厳蕃のいいたいことがわかったらしい。


「だが義弟おとうとよ、おぬしの申すことももっともだ。いつなんどきどうなるかわからぬ身の上、そのときに備えることもたしかに必要だ。そのときに突如放りだされるよりかは、そのときの為にじょじょに馴らしておくべきだな」


義兄上あにうえ、ケイトのことをおっしゃっていますよね?」

 土方は、華奢な肩を掴む掌に力をこめた。

「なんだと?どういう意味だ?」


 厳蕃のの奥に、なにかしらの光をみた気がする。


 土方は、相貌かおを左右に振り、自身のみたものを追い払おうとする。


「いえ、申し訳ありません」

 呟くように謝罪すると、掌を肩からはなす。それから、山崎へ向き直る。


「いつ出発する?」

「そうですね、試合がおわった翌日には。ジムもそのほうがいいでしょう」

「承知した。準備をすすめてくれ。追加で同道させる者もおるやもしれぬ」

「承知」

 山崎は、二人に一礼すると去っていった。


「追加で同道させる者?」

 背後の呟きに、土方は振り返って両の肩をすくめてみせた。

「わかりません。なにゆえかそう申していました。あるいは、同道をやめさせる者がおるやもしれませぬ」


 厳蕃は、その土方の言になにも答えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ