神の審判
「なんだって?」
全員が一様に驚いたのはいうまでもない。
クレイジー・ホースらスー族の戦士たちだけでなく、「偉大なる呪術師」たちまで参加したいとの意思表明をしたのだ。
「おいおいおい、いくらなんでも爺様ができるものか?」
「いや、もしかすると神様のほうじゃないのか?」
「だとしたら、神様級の試合になるのかな?」
元祖「三馬鹿」は、面突き合わせながら笑った。
いや、それはそれでとんでもなくすごい野球になるのではないのか・・・?
一様に戦慄がはしる。
「ちょっとまて。かような試合、神様だけでやってもらわねば、人間はどうなってしまうのだ?」
「斎藤、想像にかたくないだろうが、ええっ?」
「しんぱっつあん、野球が死の試合になるってこと?」
斎藤、永倉、そして藤堂。藤堂の疑問、否、かぎりなく真実にちかい予測に、またしても戦慄がはしる。
「案ずるな、それは阻止した」
厳蕃だ。秀麗な相貌の片方の頬に、くっきりと掌の痕をつけ、きっぱりと宣言した。
若い方の「三馬鹿」、それからケイトは、まだまだ子どもである。
気づかぬふりもみてみぬふりも、どちらも大人のようにできぬようだ。
くすくす、と忍び笑いにしては大きすぎる笑声が、戦慄に上書きされる。
「義兄上の申される通りだ。身をていし、それはご辞退願った」
土方だ。
義兄上とは反対の側に、やはりおなじ大きさの掌を刻んでいる。
さらにくすくす笑いが・・・。
「やめぬか、おまえたち。作法を心得よ」
斎藤がぴしゃりといった。その勢いに、すぐに止む笑声。
「いかに情けない面だとはいえ、それを表情にださず、おくびにもださぬ。それが立派な武士だ」
つづきがあった。
この際、その作法に武士云々は関係ないことはいうまでもない。
「斎藤、面白すぎるぞ」
原田がふきだした。
途端に、全員が大爆笑する。
土方も厳蕃も、笑うしかないではないか?
「選手としては、だ。だが、どうしても参加なされたい、と。ゆえに、審判として参加される。妥協していただいた。断れぬであろう?」
土方は、そういってからめずらしく気弱な笑みを浮かべた。
審判だ。それこそ、下されるのは神による最後の審判だ。
それを後からきいたフランクとスタンリーは、「神様・・・」と自身らが信仰する神を讃え、否、すがるかのように呟いた。
同時に、二人は此度も監督と任命されたことに、あらゆる意味で怖れ慄いた。
『大丈夫、われわれがついている』
厳蕃に肩を叩かれながら、二人の表情にさらに不安がひろがったのはいうまでもない。
『監督を血祭りにあげるようなことは、いっさいさせぬゆえ』
『真剣か?』
同時に叫ぶ二人。
そして、あらためて自身らの無事を信仰する神に祈った。




