野球と「造化三神」
何事もなかったかのように振舞うのは、挑戦した者たちにとっても挑戦しなかった者たちにとっても難しい。
とくに、好奇心旺盛かつ人生経験のすくない若い方の「三馬鹿」や亜米利加の民であるケイトは、詳細をしりたがった。
それを、機微に聡い島田や相馬が、襟首掴んでやめさせる。
重苦しい雰囲気は、一行がスー族のもとに戻るまでつづいた。
「もう一勝負どうかな?つぎはスー族の戦士にもくわわってもらって」
「送別会がわりだ。盛大にやらねば。そう、こりゃ「ねばならない」だぜ、副長」
「あー、案じなくていいぞ、副長?賭けは抜きにする。おれたちの神様方に誓ってもいい。ほら、このように」
藤堂、永倉につづき、最後にまくしたてた原田は、体躯ごと三神様へと向き直ると掌をぱんぱんと叩いた。
『だから申しておろう、槍遣い。それは神社ですることだ。すなわち、「造化三神」への挨拶じゃ』
白き巨狼がぷりぷり怒った。ほかの二神も眉を顰めている。
元祖「三馬鹿」が土方を取り囲んだのは、ある昼下がりである。
東へ旅立つジムの送別会がわりに、また野球をやろうというのだ。
『天御中主神 、高御産巣日神 、神産巣日神が「造化三神」という。われらの神格とはわずかに違う系統だ。わかったか、お馬鹿ども?』
その思念に、両の掌をお天道様へと向け、肩をすくめて「わからん」の所作をする元祖「三馬鹿」。
一番小さな神様が、くすくす笑いだした。すると、大きな神様も笑いだした。そして、土方も。
まだ心からではないものの、旧知の仲の馬鹿さ加減にほんのわずかではあるが精神がはれたような気がする。
「義弟よ、なかなかいい思いつきだと、わたしは思うがな」
笑いをおさめ、厳蕃がいった。
土方も同様だ。ゆえに、一つ頷いた。
「ジムは、われわれの大切な家族の一員。大切な門出。前途を祝し、盛大に野球の試合をしましょう」
土方の決断に、元祖「三馬鹿」はわいた。
当然だ。
「ただし、わかってるだろうな、おめぇら?あらゆる類の賭けごとはなしだ」
土方の愛刀「千子」の切っ先よりも鋭き一語が、元祖「三馬鹿」を容赦なく斬りつける。
「おいおい副長、賭けごとは左之だ。ひとくくりに・・・」
「そうだよ、副長。こんなに品行方正、真面目なおれが、賭けごとなんてするわけない・・・」
永倉と藤堂が同時に文句をつけている中途に、通りかかってその様子をみていた山崎が、掌にもっていた帳面をぱらぱらとめくりながら告げた。
「慶応元年八月のある暑い日、金貸しの小山殿が屯所に・・・」
「おいおいおいおいっ」
「うわわわわわっ」
冷静なまでの声音ではじめられたその報告に、二人は慌て、大声をだして邪魔をする。
土方も厳蕃も苦笑した。
やはり、この三人はなくてはならぬ馬鹿どもだ、と心底思った。




