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土方 VS. 辰巳

 土方は戸惑っていた。


 白色の世界。これが暗示の産物であることがわかっている。ゆえに、どうしていいかわからぬ。


 孤独だ。隔絶された世界。この世界におのれしかいないような錯覚。これほど独りであることを感じたのは、生まれてはじめてやもしれぬ。たしかに、自身、餓鬼の時分ころより独りでいることを好んだ。とくにそういう年齢ころは。だが、そういった時期ころですら、周囲に必ずだれかいた。家族であったり友であったり・・・。


 そして、それをすぎると、つぎは逆に独りでいるのが耐えられなかった。周囲にはそうみえなかったやもしれぬが、土方自身、独りになるのが怖かったのだ。


 いまのように・・・。


 新八や総司はどうしているのだろうか・・・?戦っているのか、それともやられているのか。

 みな強い。土方自身、世界中の戦士にそれを自慢するだけの自信をもっている。それほどの力を、みなもっているのだ。


 いつもながら自身にはもったいない、と思わざるをえぬ。同時に、なにゆえ自身についてきてくれるのか、ともにいてくれるのか、と考えざるをえぬ。


 もう何百、何千回と思っていることだ。


 しかし、新八や総司がどれだけ強かろうと、鍛錬しようと、残念ながらあいつに敵うわけもない。それもわかっていることだ。

 そう、あいつの強さは、ほかのいかなる者とも違うのだ・・・。


 もはやこの馬鹿ながい太刀を正眼に構えているだけでも疲弊してきた。かっちゃんのように常日頃から大木とみまごうような木刀で素振りをしてきたわけではない。それよりも、姑息なで相手を打ち負かすことばかり考えていた。しょせん、勝てばいいだけのこと。とくに実戦においては、どれだけ白刃をかわし、相手を斬り殺すかにかかってくるのだ。


 両のかいなの痺れに、溜息がでそうになった。


 そのとき、感じた。この独特の感じは・・・。


 心の臓が跳ね踊ってやがる。おれがこれほど緊張するとは・・・。

 

 自身、おかしかった。思わず、笑みを浮かべてしまう。


 ぱちんと乾いた音がした刹那、自身の周囲の霧が薄らいだ気がした。


「坊・・・」

 声にだそうとしたが、実際はでなかったに違いない。


この馬鹿ながい太刀を、すんでのところで落としそうになったのを、慌てて握りなおした。そして、あらためて地に置いた。鞘は岩の上に置いたからだ。


まさか左腰にさせるようなながさではない。かといって、背に負うわけにも。


 そんなことはどうでもいい。あいつが、あいつがいる。昔からの習慣を、いまでもきっちり護ってやがる。

 おれの一足一刀の間合いの外に、片膝つき、面を下げている。


 これまでと違うのは、愛用のくないを両脚のちかくに置いていることだ。


 それは、武士にとっては相手に戦意や害意のないことを示している。


「いかに挑戦者といえど、あなたに刃を向けるわけには参りませぬ、わが主よ」

 囁き声にちかいが、たしかにあいつの声、そしてものいいだ。

 

 両のがかすむ。涙でよくみえねぇ。

 そのでも、面を伏せるあいつの華奢な両の肩が震えているのがはっきりとわかった。


「坊、あいかわらず頑固なやつめ。もっとちかくによれといつもいってるだろうが」

 おれもあいかわらずだ。会っていきなり小言か?


 いや、わかってる。それがあいつの習性なのだ。その習性がなくなることはない。死してなお、それは消え去ることがないのだ。


 おれは、たまらず一歩踏みだした。あいつの肩がびくんと動いた。近間に入られることを嫌っているからだ。


 まるで野生の狼だ。壬生狼などよりよほど。


 あいつにちかづくのに、あいつの頭を撫でたり肩を抱いてやるのに、どれだけときを要したか・・・。

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