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「好奇心は猫をも殺す」

「ケイト、ケイト、どこへゆくんだ?」

 気配と気を断ち、岩から岩へとまるで猫科の動物のごとく移動しているケイトのすぐ背後に、これもまた気配も気も断った若い方のヤング「三馬鹿」がその背に呼びかけた。


 岩のうしろで様子をうかがっていたケイトは、驚き飛び上がってしまう。


「なんなの、兄さんたちビッグブラザーズ?」

 ケイトは、夜目にも美しい相貌に怒りの表情をたたえ、振り向きざまに日の本の言の葉を投げつけた。


 おとこ三人が同時に口許に指を一本立て、「しー」と注意する。


「ケイト、だめじゃないか?おれたちは向こうでおとなしくまつよう厳命されている」

 田村だ。兄貴面でとくとくと語る。

「そうだよ、ケイト。向こうでまつべきだ」

 玉置である。こちらもやはり兄貴風をふかしまくっている。


「いいつけも守れないお転婆娘は、厳周兄だって嫌いだぞ・・・」

 市村・・・。いらぬこといいの市村の言がおわるまでに、その腹部に信江譲りの強烈なパンチが入りそうになっていた。が、市村もよんでいた。掌でうけとめた。

 が、ケイトの方が一枚上手だった。パンチダミー。もう片方のパンチが市村の左顔面にもろに入った。


「いいつけとトシチカは関係ないじゃない。スケベなテツ兄さんにお転婆だの嫌われるだのといわれたくないわ」

 ケイトは腰に掌をあて、左頬をおさえてうんうん唸っている市村を睥睨した。

 そう、文字通り睥睨した。


「それに、兄さんたちビッグブラザーズもおなじことをかんがえているんでしょう?」

「なにいってるんだ、そんなみみっちいことかんがえる・・・」

 市村が抗弁しおえるまでに、その体躯が宙に浮いた。


 シャツの襟首をつかまれ、そのまま宙吊りされたのである。


 呆然とその様子をみまもる兄妹たち・・・。


「まったく、油断も隙もないな、おまえたち」

 島田だ。そして、相馬もいる。

「それだけの元気があるのなら、夜の勉強会といこうではないか、なぁおまえたち?」

 星星の淡い光の下、相馬の不敵な笑みが浮かぶ。


「まってよ、主計兄。勉強なんていらないよ。おろしてよ、魁兄さんっ!」

「だめだだめだ、あれほど申したであろう?これは神聖な儀式もおなじこと。それを・・・」

「でも、あいつに会いたいのはおれだっておなじだよ。おれは、あいつにいっぱい謝らなきゃいけないし、礼もいわなきゃならない」

 市村は、じたばたと暴れながら自身の想いのたけをつづった。


「てっちゃんだけじゃない。わたしだって、この生命いのちを助けてくれた礼をいいたい。それから、こんなに元気になったところをみせてやりたい」

 ふだんはききわけのいい玉置まで、こんなことをいう始末。

「わたしも、わたしも八郎兄のことを、八郎兄や良三を助けてくれた礼をいいたい」

 そして、田村まで。


 島田は、相馬と相貌をみ合わせてしまう。

 その想いは、自身らもおなじであるから。


 あのとき、坊が自身の頸を跳ね飛ばしたからこそ、戦が終わった。そして、生命いのちをつなぎとめたのだ。

 

「案ずるな、みなの想いはちゃんと伝わる。挑戦者チャレンジャーたちが、ちゃんと伝えてくれる」

 島田は、柔和な笑みとともに告げた。


「ところでケイトッ、どこへゆく?」

 島田らが兄たちに気をとられている間に、そっと立ち去ろうとしていたケイト。まんまとみつかり、島田に宙吊りにされてしまった。


「だって、気になるんですもの」

好奇心はキュリオシティ・キルド猫をも殺す・ザ・キャットっていうんだよ」

 島田のもう片方の掌に宙吊りにされている市村が教えてやる。


「なにいってるのよテツ兄さん、それは大英帝国ブリティッシュ・エンパイアの諺よ」

「だーもー、これだから女子おなごはっ!」

「なんですって!」

 市村とケイトのいい合いが夜のブラック・ヒルズに響き渡る・・・。




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