仲睦まじい神様方
戻る途中で、土方はしばしの離脱を二人の「偉大なる呪術師」やクレイジー・ホースらに願いでた。
野村がブラック・ヒルズの洞窟に彫り上げた作品をみにゆこうというのだ。
ちょうどいい機会であることはいうまでもない。
『ならば、われわれも参ろう』
土方から告げられると、 闇の色の羽根飾りを頭上で躍らせつつ一人がいった。
土方もその仲間たちも、さらにはおなじ神獣の依代たる厳蕃と幼子、さらにさらにその父神の依代たる白き狼まで、いまだにどっちがどっちか区別がついていない。
いまも、土方は心中で判別しようと試みていたが、そうそうにあきらめた。
だいいち、わかったところでどうということはないだろう。
『いらぬ。きてくれなくともよい』
にべもなく突っぱねたのは、無論、厳蕃だ。
『なぜだ?われわれを彫っているのであろう、当人がみずしていかがいたす?』
血の色の羽根飾りを躍らせつつ、もう一人が反論した。
『こやつは狂っておる』
白き巨狼が割って入った。その嫌味に、厳藩の表情が険しくなったのはいうまでもない。
『此度は、彫刻見物だけではないのでな。すまぬが、つぎの機会にしてもらえぬか?』
右に左にいきつ戻りつしつつ、白き巨狼は丁重にお願いした。
『ほう・・・。なにか面白きことでも?それならば、やはりわれわれもゆきたいのう、アウチマン?』
『さようさよう、此度の戦は譲ってやった。つぎも譲る道理はなかろう、のう、アウカマン?』
血の色と闇の色の羽飾りが愉し気に踊っている。
『面倒臭い連中よのう・・・。われらが日の本は、おぬしらのように駄々さえこねれば思うようになる、というような厚顔無恥な文化ではない。ゆえに、遠回しに拒否するわけだ・・・』
『つまり、くるなと申しておる』
白き巨狼の思念にかぶせ、厳蕃がぴしゃりといった。
「偉大なる呪術師」の皺だらけの眉間に皺が寄ったとしてわからなかった。
『あー、いえ、申し訳ない。此度は、内々だけでみたい理由があります。かならずやうちの者に案内させますゆえ、此度はどうか見送っていただけないだろうか』
みるにみかね、土方は「偉大なる呪術師」たちと義兄、それから白き巨狼の間に割って入った。
『幻視でみればよいではないか』
いついつまでも噛みつく厳蕃。
「幻視は、『オ・ツ・ゲ』のようなものだ、馬鹿たれが」
「さすがはおつむの弱い弟の依代だけはある」
日の本の言の葉でいい、老呪術師たちは「カッカッカッカッ」と皺くちゃの口唇をおおきくひろげ、笑った。
「なんだと、おつむは弱くない!そっちこそ呆けておるではないか」
厳蕃が切れた。日の本の言の葉で、怒鳴り散らす。
「義兄上、どうか落ち着いて、落ち着いてください。そちらも、どうか冷静に・・・」
『はーはっはっは、馬鹿たれ対呆け老人か?これは面白い対決だ』
「壬生狼っ、やめないか」
思念による茶化しに、土方もまたきれた。
無論、おおくの騎馬たちの動きが止まった。そして、澄んだ音色の指笛で動きだすところも。
「なんだかんだいっても、神様方って仲がいいよな?」
「ほんとだよね。喧嘩するほど仲がいいというのは、亜米利加であっても清の国であっても共通に違いない」
藤堂と沖田は、また息をしはじめた那智と天城の鞍上で、呑気に批評するのだった。
『仲良くなどないっ!!』
『仲良くなどない』
そして、即座に日の本と英語、それぞれ二つずつの声音でかえってくるところもおなじみのこと。




