想い そして真意・・・
桜の両の瞳は、確実にカスター将軍とその直属の隊二百強のうごきをとらえていた。
これはまさしく掌握だ。あるいは、掌で踊らせているということか・・・。
ジョージ・アームストロング・カスター・・・。かれは、自身が死ぬことを、すこしは予見しているのだろうか?
否、死どころか自身の軍が負けることすら予想だにしていない。誠におろか・・・。
絶対の自信と矜持を誇るだけで、周囲をみず、きかず、感じぬ、典型的な愚将。
辰巳は、枯れ果てた木の下で胡坐をかき、一町(約110m)ほどところに巻き起こっている土煙を眺めていた。
カスターとその直属の隊が、レイン・イン・ザ・フェイスとその戦士たちに奇襲をかけようとしているのだ。
いや、実際のところは奇襲ではない。だが、なんにでも先手を好むカスターは、これを奇襲であると、インディアンよりも一枚上手であることを、喧伝したがるに違いない。
まぁ、結果はおなじこと。奇襲であろうが防戦であろうが、結果という運命は決しているのだ。
やはりきたか・・・。辰巳は、土煙から視線を移した。叔父の厳蕃がこちらにむかってくる。
面倒くさい。辰巳は心底思う。同時に、それほどみたいのなら、心ゆくまでみればよかろう。みたことを後悔するだけだ、とも。
ゆっくりと立ち上がる。
間もなく、カスターの本隊を衝いた父さんが、クレイジー・ホース、ツー・ムーンズとともにカスターとその直属隊の後背を脅かすはず。
それまでに、すこしでも愉しむか・・・・。
「叔父上とともに・・・」
辰巳は、そう呟くと枯れ木の下から消え失せた。
わからぬ・・・。
金峰はどこにゆくべきかを心得ているようだ。そして、四十もまた。二頭は馬首を並べ、速歩をつづけている。
厳蕃は、ただのっているだけでいい。
辰巳、おまえはなにがしたい、なにを欲している。真意はなんだ・・・。
厳蕃は、痛むこめかみを指が四本しかないほうの掌でもんだ。
追い詰められている。じわじわと、それこそ真綿で頸を絞められるがごとく。くそっ、思いださねばならぬことがことごとく思いだせぬ。
辰巳の人格がかわったこと、それに伴う暴挙と暴走は、自身の思いださねばならぬことに起因している。
厳蕃は、それだけは確信していた。
ゆえに、ますます焦燥を募らせた。
まさかこのとき、それが暗示によるだけでなく、封印されていたということなど、厳蕃はしる由もなかったのである。




