表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

448/526

淘汰(セレクション)

 中央の軍とは別に、右翼に軍を敷くことになった。その別働隊も、さらに二隊にわけ、敵軍に相対する。 相馬と島田、伊庭は蝦夷で実際に指揮をとった経験スキルがある。斎藤は、会津で隊を率いて最後まで戦い抜いた経験スキルがある。永倉もまた同様で、江戸で土方らと袂を別った後、靖兵隊せいへいたいを率いていた。


 全員がティーピー群から離れ、川の畔に集まった。

 あくまでも駐屯地である。各部族にわかれてつくられたティーピーは、身を寄せ合うようにしている。

 これだけの人数が集える場所といえば、川の畔くらいしかない。


 山崎と野村、スタンリー、フランク、イスカ、ワパシャ、ジム、この七名は残留し、各部族の非戦闘員を護るとともに、いざというときにはその非戦闘員を指揮することになった。

 

 此度は若い方のヤング「三馬鹿」も従軍することになった。

 この三人もまた、戦の経験スキルがある。伝令オーダリーではあるが、参戦できるということで、三人がおおいにはりきっていることはいうまでもない。


『トシ、わたしも連れていって。兄さんたちビックブラザーズといっしょに、伝令オーダリーでもなんでもするわ』

『ケイト、気持ちはありがたいが、戦士ウオリアーが戦う。これがインディアンわれわれ決まりごとルールなのだ。女性レイディース老人エルダリーズは、留守を護るという大切な役割がある。ノブエさんと一緒に、女性レイディース子どもたちキッズをお願いしたい』

 土方が口唇を開くよりもはやく、イスカが説明してくれた。ケイトも、イスカのその説明には素直に頷き、『わかりましたオール・ライト』と承知する。


『策どおり、右翼を率いて時期タイミングをみ計らい、小隊をぶつけるのだ。常勝将軍の腕のみせどころだ、頼むぞ、義弟おとうとよ』

 厳蕃は全員をみまわし、最後に義弟の肩に四本しかない掌をおいていった。

義兄上あにうえ、それはいくらなんでも無茶・・・』

 土方は、反論しようとした。

『いいや、こういうことは少数、否、単独のほうがやりやすい。なに、案ずるな。なにも首級くびをとりにゆくわけではない。攪乱するだけだ』

『しかし・・・』

 土方は当惑した。

 厳蕃、これは無論、幼子たつみがいわせているのであるが、厳蕃、土方自身の息子、白き巨狼で敵の中央の背後を衝いて攪乱するというのだ。


『案ずるでない。われらも参るからの』

 そのとき、すぐちかくにあるティーピーの蔭から忽然とあらわれたのは、スー族の「偉大なる呪術師グレート・シャーマン」たちである。

 よろよろとぼとぼと、互いを支えあいながら土方たちにちかよってきた。

 老呪術師シャーマンたちが歩をすすめるごとに、闇の色の羽根飾りと血の色とのそれが、それぞれの頭上で軽快に踊っている。


『参らなくてよい』

 厳蕃は、二人に視線を向けるまでもなく拒絶した。

『こういうことを、日の本ジパングでは「年寄りの冷や水」や「老いの木登り」と申す。呪術師シャーマン呪術師シャーマンらしく、薬草を煮詰めたり呪文を唱えたりしておれ』

『たわけが・・・。それは魔女ウイッチだ』

 厳蕃の辛辣な言を、すぐさま突っ込む白き巨狼。


『つれないのう・・・。せっかく親子兄弟水入らずで人間ひと淘汰セレクションできると申すのに・・・』

『さようさよう、水も大量にあるでのう。火も然り。風と大地・・・。四大元素フォー・エレメンツがそろっていると申すのに・・・』

 おかしそうにいう老呪術師シャーマンたちの言に、厳蕃と幼子たつみだけでなく、土方らも互いの相貌かおをみあわせている。


『まあよい。これよりいくらでもその機会チャンスはめぐってこよう。此度はわれらも見物させてもらうとしようかのう』

『さようさよう。ともに淘汰セレクションできるのもすぐのこと。愉しみはとっておこう』

 不吉極まりないことを愉しそうにいいながら、老呪術師シャーマンたちは、ちかくのティーピーの蔭までよろよろとぼとぼ戻っていった。

 そして、そこで忽然と消えた。 


淘汰セレクション・・・?』

 その一語を呟いたのは、市村だけではない。幾人かが同時に呟いていた。


『あー、愚息どものことは気にするな。そうそう淘汰カット・バックなどするものか。ただの冗談ジャスト・ジョーキングだ・・・』

『壬生狼のいうとおりだ。いまは兎も角、眼前の敵に集中しろ・・・。義兄上あにうえ、やはり、三人・・でゆかれるのですね?』

 土方は、なにを申してもききいれず、実行に移すことをわかっていながら再度質問した。

 なにせ、柳生の頑固さは日の本一なのだ。


『それはおおげさであろう?義弟、おぬしもそうとうなものだと思うが?』

 それをよんだ厳蕃の苦笑まじりの言。

 が、そこにはこれ以上の話し合いは無駄であるということも、存外に含んでいた。


 土方は、複雑な思いを抱いたまま、自身らの軍議を終えるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ