表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

434/526

Repeat after me “I miss you”

「ゆえに、ゆえにだな・・・」

 土方は、これで何十度目かの溜息を吐きだした。

 腕組みをし、夫を睨みつけている妻をまえにして・・・。

「信江、信江の強さは重々承知している。亜米利加このくにに、信江より強いおとこがいるとは思ってはおらぬ・・・」

 無言のままの妻をまえにし、夫はおなじいい訳をもう三度は繰り返していた。

女子おなごだからとて、身に危険がというわけではない」夫は、そういいながら内心でそれは絶対に「ないない」と力説してしまう。それから、はっとした。

 夫の内心をよんだ妻の表情かおがさらに険しくなる。

 自分たちのティーピーのなかで、土方は自身の息子に対するよりさらに難儀をこうむっていた。


「いやだわ、トシ・・・」

 そのとき、土方夫妻のやりとり、正確には土方のいい訳の羅列と信江の無言の貫きを、下敷きラグの上におとこのごとく胡坐をかいて眺めていたケイトが、日の本ジパングの言の葉で叫んだ。

 ぎょっとしてケイトをみるまでもなく、すでにケイトは立ちあがって土方の懐を脅かす位置まで迫っていた。

「もうっ、素直に寂しいっていえないのかしら?信江ししょうがいなくなったら寂しくて寂しくてたまらない、って・・・」

 ここが民族性の違いというところであろう。日の本のおとこならば、なかなか抱かぬ感情でも、亜米利加このくに人間ひとは容易に抱き、それをあらわす。

 そして、土方は柔軟性があり、機転がきき、あまつさえせこい。

 すぐさまそれにのっかった。無心のまま。


 そして、攻略できた。


 が、それだけではなかった。

「わたしもゆきたい」

 と、なんとケイトがいいだした。

 無論、ケイトの目的は、鍛錬であることはいうまでもなかろう。が、厳周でもあることはいうまでもない。

「それはだめだ」

 土方は、幾つもの理由を並べ立てた。論理立て、なおかつ女性蔑視にならぬよう。そうでないと、またいつ土方自身の妻に突っ込まれるかわからぬからだ。


「信江からもいってくれ」

 土方は、ついに匙を投げた。

 亜米利加このくに女子おなごは口がたちすぎる、とはなるべく考えないようにしつつ。

 日の本ここく女子おなごがただ単純におとこより弱く、主張や口答えができぬ風潮があり、それしかしらなかった土方は、ケイトがことごとくいい返し、さらには倍にも三倍にもして意見を述べてくるのにただただ驚いた。

 くわえて、それができるだけの日の本ジパングの語彙力の豊富さにも愕然とさせられた。

 これはもう手に負えぬ、というわけだ。

 

 黙したままじっと自身を睨みつけている妻をみながら、土方は思いついた。

 そうだ、厳周自身に同道を諦めさせればよい、と。

 こすい方法ではあるが・・・。


 そして、それはすぐさま実践に移された。

 気の毒な厳周は、兄貴分たちから伝授された知恵ノウレッジ経験スキルアクションを総動員し、どうにかケイトを思いとどまらせることに成功したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ