親子対決第二弾 ベースボール編
「ゆくぞっ!」
なんと、厳蕃は球を握る掌を打者である息子へとまっすぐ伸ばし、気合のひとことともに三球三振でうちとることを宣言してのけた。
それを無言のまま、父親似の二枚目な相貌に不敵な笑みを浮かべ、受け止める厳周。しかも、おもむろにバットの先端を父親に向け、本塁打予告までおこなったではないか。
「小癪な・・・」
「厳周っ!よっ、男前っ」
父親の呻きは、周囲の歓声によってかき消された。
緊張がますますたかまってゆく。
投手はふりかぶり、投げた。息子とおなじく、きれいなフォームからの剛速球だ。
『ストライク!』
主審のイスカの宣言が静まり返ったマウンドに響く。
厳周の相貌に、またしても不敵な笑みがひらめいた。
それを、捕手の島田が上目遣いで盗みみた。
様子みだ。いまのでなにかを掴んだはずだ。投手だからこそ、一度みれば相手投手の力量を把握できる。そして、親子だからこそ、父親がどのような勝負をしたがるかを予測できる。これは武術ではない。ゆえに、互いに精神での攻守はそれほど難くも激しくもないだろう。
島田は、そう判断し、つぎなる球の指示を投手に送った。
相馬は力押しというよりかは、技術にすぐれている。厳蕃は、どちらかといえば力だ。が、技術が劣るというわけではない。すくなくとも、技術面においても通常の投手以上に力を発揮できる。
微妙なスライダー。打者はひっかかり、大きく振りかぶってポカをやらかした。
これでツーストライク。島田は、さらに指示を送った。
フォークである。投手は、うまくこたえてくれた。速球が打者の手元でがくんと辞儀をした。その落差は見事なほどだ。
それが落ちるまえ、島田は厳周がバッターボックス内で体躯ごと後ろへ退いたことに気がついた。摺り足の要領のそれは、瞬間移動的な速さであった。
そして、移動と振りかぶりが同時だった。
「こんっ!」とバットが球を芯で捉えた小気味よい音が、島田の耳朶をうった。
重い速球であろうはずが、打者はものともせずに気合の叫びとともにバットを振りぬく。
「しまった!」
島田は、自身の判断間違いを呪いながら立ちあがっていた。
「センター、ゆくぞっ!」
島田は、ミットをセンターへと向け、注意を促す。
『ほう・・・。このわたしに超美技をみせよと申すか』
島田のミットの先には、無論、この白狼、壬生狼がその狼面に不敵な笑みを浮かべ、控えていた。