女子(おなご)の嫉妬>漢(おとこ)の殺意
チーム・スタンリーの先発は厳周、チーム・フランクの先発は相馬。
チーム・スタンリーの一番は、ショートの藤堂、二番はライトのケイト、三番はファーストの伊庭、四番はキャッチャーのジム、五番はサードの土方、六番はセカンドの野村、七番はレフトの沖田、八番はセンターの斎藤、九番はピッチャーの厳周。控えのピッチャーとして山崎。
チーム・フランクの一番は、セカンドの田村、二番はショートの市村、三番はキャッチャーの島田、四番はサードの厳蕃、五番はファーストの永倉、六番はライトの信江、七番はレフトの玉置、八番はセンターの幼子、九番はピッチャーの相馬。控えのピッチャーとして原田。
イスカとワパシャが審判をつとめる。
そして、白き巨狼は、怪我人がでた場合の為の控えの選手だ。
この日もまた快晴。イスカの試合開始の宣言で、野球がはじまった。
先行はチーム・フランク。田村がバッター・ボックスに立った。
なにせだだっぴろい大地に木の棒で適当にダイヤモンドなどを描いただけの簡単な野球場だ。
スー族の人たちもたくさんみにきている。
居留地で、騎兵隊の兵士たちがやているのをみたことがある者もいるようだ。
みな、興味津々でみている。とりわけ、漢たちは野球を、女性は野球をする者を、それぞれ目的意識が違っているようだが、みている。
厳周は、「ニューヨーク・タイムズ」のスポーツ記者たちが絶賛したほどの球速と球質を誇る投手だ。しかも、そのフォームは癖もなくきれいである。さらにはかっこいい。
ふりかぶり、ジムの構えるキャッチャー・ミットへと剛速球を投げる度に、スー族の男女からそれぞれ違う類の賞讃がおこる。
『ストライク!』『ストライク!』『ストライク』
ストライクを築いてゆく。
田村も市村も俊足だ。最初からかっ飛ばすことなど考えない。兎に角、塁にでよ、と監督であるフランクからいわれている。ゆえに、バンドを試みた。が、速すぎてそれもできない。
三番の島田は、思いきってふりかぶっていった。がっしりとした体躯をいかせば、当たれば本塁打間違いない。
が、これもまたあたれば、の話で、あたらなければ三振となる。
三番、四番、五番。チーム・フランクのこのトリオは、とりわけ危険だ。
「よくやった、厳周」「さっすが厳周、でも、たまには打たせてもいいんじゃない?暇だよね」
サードの土方、レフトの沖田がそれぞれ声をかけると、厳周はさわやかな笑みを浮かべた。
スー族の女性たちが騒然となる。
それは、どうやら三人ひっくるめて、のことのようだ。
「「豊玉宗匠」、厳周、鼻の下伸ばさないほうがいいと思いますがね。すくなくとも、わたしまで巻き込まないでくださいよ。どうも殺気が、あからさまな殺気が、さっきから痛いんですけど」
「総司兄、その駄洒落なかなかですよ・・・」
「厳周、ぼけてんじゃねぇよ。みてみやがれ、おれもおめぇも、いわれのない殺意にさらされてんだ。試合中に流血沙汰にでもなってみやがれ・・・」
土方が形のいい顎でさすほうをみると、信江もその弟子であるケイトも、それぞれの場所からにらみつけている。
「おお、こわ・・・。流血沙汰くらいですめばいいですけどね・・・。ご愁傷様です、「豊玉宗匠」、厳周・・・」
「縁起でもねぇこといってんじゃねぇよ・・・」
女子の嫉妬は、漢の殺意より厄介だ・・・。
土方はそれを餓鬼の時分よりしっている。幾度も修羅場を潜り抜けてきてもいる。
そう、厄介すぎる・・・。ときに手に負えねぇじたいに発展する、のだ。
もてすぎる漢のつらいところだ・・・。土方は真面目に考えるのだった。




