カスター将軍とエリオット軍曹
「あ、連隊長?エリオットッ、隊長っ!連隊長がやってきましたよ」
倒れかかったような幕舎のまえで、幾人かの漢たちが葡萄酒の壜をあおっている。
カスターがブラディ・ナイフと士官を伴ってあるいてくるのをみた副隊長は、幕舎のなかに呼びかけた。
「伍長、なんだその格好は?それに、昼間から・・・、いったいどういうつもりだ・・・」
幕舎のまえまでやってくると、若い士官は周囲をみまわし眉をひそめた。無論、注意すべきことはちゃんと注意せねばならない。
「やめろ。この連中には、なにをいっても通じん」
カスターは、鼻を鳴らしながら掌をあげ、若い士官を制した。
相手にするだけ時間も労力も無駄、ということであろう。
こんな連中は部隊の恥だ。それに、お荷物だ。
また違う命令を与え、ほっぽりだしてやる・・・。
カスターは、心中で幾度もそう繰り返した。
「連隊長、わざわざのお越し、痛み入ります」
上半身は下着だけ、下のズボンはベルトをはずした状態で、幕舎のなかから現れたのは、軍曹のエリオット・ノートンである。
片方の掌に葡萄酒の壜を握り、もう片方の掌は握り拳をつくっている。
ふらふらと、じつにあやしげなあしどりだ。カスターのまえにくると、壜を握ったまま適当な敬礼をよこした。
「軍曹、中央までいって戻ってくるのに、ずいぶんと時間がかかったな?」
カスターは、不快さを隠そうともせずいった。
「いやぁ、おれたちがいないほうがいいと思いましてね。だから、途中、町があるごとに女を抱きながらきたってわけですよ」
軍曹は、これみよがしに大声で応じた。
エリオットの部下がいっせいに下卑た笑声をあげた。周囲の隊の兵士たちは、侮蔑の視線を向けている。
カスターは、殴りたい衝動をかろうじておさえこまねばならなかった。握った両の拳がぶるぶると震えている。
「化け物にあったよ、連隊長・・・」
不意に、軍曹が連隊長にちかづいた。それから、その耳朶に酒精とともにふきつけた。
「化け物だと?」カスターは鼻で笑おうとして失敗した。視線の先のエリオットの表情が、あまりにも険しかったからだ。
「ワシントンで会った。西の黄色い猿どもだ。だが、そのなかに化け物がいる。そいつらを追っていた。西に向かうと吹聴しているが、このあたりにいるかもしれん。臭いがするからな」
エリオットは、そういっきにまくしたてた。カスターの耳朶から口唇を離すと、がっしりとした両の肩をすくめた。
「おいおいおい・・・」
カスターは、囁きながらもなにゆえかそれを否定することができないでいた。ろくでなしで素行の悪いエリオットではあるが、兵士としての腕や技量は確かだ。否、どんな兵士よりも立派だ。そのエリオットにこうまでいわせているのだ。あるいは・・・。
「掌をだしてくれ、連隊長。その証拠をみせてやるよ・・・」
いわれるまま、カスターが掌をだすと、エリオットは握っていた拳をその上でひろげた。すると、なにかがぽろりとカスターの掌の上に落ちた。
側にいる若い士官もブラディ・ナイフも、それをのぞきこんだ。
「発射した銃の弾丸だ。その猿どもは、カタナという剣でそれを斬っちまう。そして、化け物は、それを掌で受けとめちまう・・・」
エリオットは、それきりなにもいわなかった。
カスターの掌の上で、陽光を受けた弾丸がきらきらと光っていた。