カスター将軍の狩り
その朝、アメリカ陸軍第七騎兵隊の連隊長カスターは、スプリングフィールド銃と自身の片腕のインディアン、ブラディ・ナイフを供に、狩りにでかけた。
成果は散々だった。痩せた兎二羽にさらに痩せた赤狐が一頭。
どうやら、このあたりに獲物はいなくなってしまっているらしい。
カスターは、ブラディ・ナイフからそうきかされた。
人間が動物たちの領域を侵してそこを破壊しているがために、動物たちがいなくなってしまっているというわけだ。
精霊がそういったのだ。
くそくらえだ・・・。カスターは、掌にある58口径ミニエー弾を銃にこめながら心中で毒づいた。
単発銃は磨きあげられ、陽光の下黒光りしている。
連隊長付きの士官は、相貌も器量も冴えないが、銃を磨かせれば抜群だ。
さる政治家の子息・・・。戦闘にでもなれば、わが身をおいて護らねばならぬ。上官が部下を護る、だと?馬鹿馬鹿しいかぎりだ。
くそくらえだ・・・。カスターは、ふたたび心中で毒づきながら、銃を構えようとしたが中途でやめた。
背後で馬蹄の響きを察したからだ。
「連隊長、軍曹がお戻りです」
騎馬を駆ってきたのは、銃を磨くのだけが唯一の取り柄の士官だ。
カスターは舌打ちした。しばしの気分転換も思うようにならぬとは・・・。
そして、士官の報告を口中で反芻した。
「口髭、精霊が騒いでおります。どうやら、小鬼が悪さをしでかすようですぞ」
ブラディ・ナイフがカスターに騎馬をよせ、そう囁いた。その鞍には、仕留めた獲物がぶら下がっている。
痩せ細ったそれらは、どうみても干物だ。
「小鬼だと、ブラディ・ナイフ?」
カスターは、鼻で笑った。
「インディアンにも小鬼がみえるのか?」
カスターが皮肉をいうと、ブラディ・ナイフの浅黒い相貌が歪んだ。
「まさか!」おおげさに驚くと、真紅の羽根飾りがその頭上で踊った。
「あなたがわかりやすようにいっただけです」
「チッ」舌打ちとともに、カスターはスプリングフィールド銃を自身の片腕であるインディアンへと放り投げた。
「軍曹?なんという名の軍曹だ?」
馬首ごと士官にむきなおると、カスターは言の葉を若い士官に投げつけた。
不機嫌さを隠そうともしない。
軍曹など、はいて捨てるほどいるのがわからんのか?
「はあ・・・」有力政治家の子息は、軍帽の下にある茶色の双眸を晴れ渡った空へと向け、しばし考えた。
「たしかエリオット、と・・・。そうです、エリオット・ノートン、と。とてもがらの悪そうな下士官です」
エリオット・ノートンという名前だけでは思いだせなかったはずだ。だが、その後のがらの悪そうな下士官、という表現で、かろうじて記憶が甦った。
ならずものの小隊。報告と様子見という名目で、第七騎兵隊から叩きだしてやったのだった。
「くそったれめ!」
しれず、その一語が口唇の外へと飛びだしていた。
また問題を抱え込むことになる。
ブラディ・ナイフと士官が驚いた様子でみ護るなか、カスターは鞍上から石ころだらけの地へ、唾を吐き捨てたのだった。




