表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

420/526

カスター将軍の狩り

その朝、アメリカ陸軍第七騎兵隊の連隊長カスターは、スプリングフィールド銃と自身の片腕のインディアン、ブラディ・ナイフを供に、狩りにでかけた。

 成果は散々だった。痩せた兎二羽にさらに痩せた赤狐が一頭。

 どうやら、このあたりに獲物はいなくなってしまっているらしい。

 カスターは、ブラディ・ナイフからそうきかされた。


 人間が動物たちの領域を侵してそこを破壊しているがために、動物たちがいなくなってしまっているというわけだ。

 精霊カチーナがそういったのだ。

 

 くそくらえだ・・・。カスターは、掌にある58口径ミニエー弾を銃にこめながら心中で毒づいた。

 単発銃は磨きあげられ、陽光の下黒光りしている。

 連隊長付きの士官は、相貌も器量も冴えないが、銃を磨かせれば抜群だ。

 さる政治家の子息・・・。戦闘にでもなれば、わが身をおいて護らねばならぬ。上官が部下を護る、だと?馬鹿馬鹿しいかぎりだ。

 

 くそくらえだ・・・。カスターは、ふたたび心中で毒づきながら、銃を構えようとしたが中途でやめた。

 背後で馬蹄の響きを察したからだ。



「連隊長、軍曹がお戻りです」

 騎馬を駆ってきたのは、銃を磨くのだけが唯一の取り柄の士官だ。

 カスターは舌打ちした。しばしの気分転換も思うようにならぬとは・・・。

 そして、士官の報告を口中で反芻した。


口髭マスタッシュ精霊カチーナが騒いでおります。どうやら、小鬼トロールが悪さをしでかすようですぞ」

 ブラディ・ナイフがカスターに騎馬をよせ、そう囁いた。その鞍には、仕留めた獲物がぶら下がっている。

 痩せ細ったそれらは、どうみても干物ジャーキーだ。


小鬼トロールだと、ブラディ・ナイフ?」

 カスターは、鼻で笑った。

「インディアンにも小鬼トロールがみえるのか?」

 カスターが皮肉をいうと、ブラディ・ナイフの浅黒い相貌が歪んだ。

「まさか!」おおげさに驚くと、真紅の羽根飾りがその頭上で踊った。

「あなたがわかりやすようにいっただけです」

「チッ」舌打ちとともに、カスターはスプリングフィールド銃を自身の片腕であるインディアンへと放り投げた。


「軍曹?なんという名の軍曹だ?」

 馬首ごと士官にむきなおると、カスターは言の葉を若い士官に投げつけた。

 不機嫌さを隠そうともしない。

 軍曹など、はいて捨てるほどいるのがわからんのか?


「はあ・・・」有力政治家の子息は、軍帽の下にある茶色ブラウンの双眸を晴れ渡った空へと向け、しばし考えた。

「たしかエリオット、と・・・。そうです、エリオット・ノートン、と。とてもがらの悪そうな下士官です」


 エリオット・ノートンという名前だけでは思いだせなかったはずだ。だが、その後のがらの悪そうな下士官、という表現で、かろうじて記憶が甦った。


 ならずものの小隊。報告と様子見という名目で、第七騎兵隊ここから叩きだしてやったのだった。

くそったれめシット!」

 しれず、その一語が口唇の外へと飛びだしていた。


 また問題トラブルを抱え込むことになる。

 ブラディ・ナイフと士官が驚いた様子でみ護るなか、カスターは鞍上から石ころだらけの地へ、唾を吐き捨てたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ