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鬼の神使いーインディアンと騎兵隊と武士(さむらい)の戦記― 続武士大神(もののふおおかみ)  作者: ぽんた


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「魁先生」と「伊庭の小天狗」

 山崎も善戦した。大坂の香取かとり流の道場で剣術と棒術を学んだ山崎もまたそこそこ遣えるだけの技量はある。実際、密偵として活躍していた時分ころには、自身の身を護るだけでなく敵を害したり捕縛したり、ということもすくなくなかった。ゆえに新撰組でもその実力は上位であった。

 だが、今回は相手が悪かった。柳生厳周、尾張柳生宗家の当主。

 正眼に構えるが厳周は何の気もはっすることなく、そして構えることもない。木刀は左腰に佩いたまま。はたして居合いか体術か、推し量ろうにも量りようもない。

 木刀を握る掌、背、そして相貌、汗まみれだ。まるで時間ときが止まっているように感じられる。

 重圧と緊張に耐え切れずに動いたのは山崎だ。わずか、ほんのわずか木刀の柄が丹田から右にずれた。それにより剣先も右へと揺れる。

 瞬きする間もない、とはこのことだ。はっとする間もなかった。

 なにゆえか、どうやったのか、兎に角木刀だけが宙を舞っていた。高く、ゆっくりと。

「参りました」動きのみえぬ相手と遣り合うほど、それどころか得体の知れなさすぎる相手と向き合うほど、山崎は愚かでも負けず嫌いでもない。

 さらなる精進は必要だが、自身は自身の得意な分野で活躍すればいい、とあらためて決意したのだった。


「八郎君、お手柔らかに頼むよ、ねっ?」藤堂がおどけたように懇願した。

 藤堂と伊庭は同い年だ。そして、小柄で二枚目ハンサムであるところも同じだ。

「いやいや平助、それはわたしの台詞だ。隻腕だ。どうか手加減してくれ」両者の秀麗なまでの相貌に浮かんだ不敵な笑み。伊庭は心形刀流のきれいな正眼。無論、残された隻腕での構えだ。対する藤堂は北辰一刀流の鶺鴒の構え。ゆらゆらと剣先が揺れるその構えは攻守にすぐれ相対する者を混乱させる。

 皆伝と目録。その差はかなり大きい。だが、藤堂は器用だ。北辰一刀流を基本とし、他の流派の技も好んで遣う。とくに伊庭とは試衛館時代から仲がよく、「練武館」にも出入りしては教えを乞うていた。つまり、互いのことをよく知り尽くしているわけだ。

 何年かぶりに相対した二人。ともに死んだはずの二人。そして、生命いのちと力を授けられた二人。そして、仲間の背を護る為、次へと繋げる為、ずっと研鑽をつづけている二人。

 

 藤堂の構えがかわった。蜻蛉の構えだ。すなわち、示現流の上段。

「うそだろ、おい?」みている永倉が両脇の沖田と斎藤に呟いた。永倉同様意外に思ったのは審判である厳蕃、そしてその息子の厳周も同じだ。

 示現流の初太刀。蜻蛉斬りは重量のある木切れや木刀を振ることにより腕に力をつけ、つけた力とその威力で相手を両断する。藤堂のような剣そのものが軽い小兵には不向きな構えだ。

「八郎君、なにを警戒してるのかな?おれのこれ、たいした威力じゃないよ。ただのはったりだと思わないのかい?こないんならおれからいかせてもらうよ」

 伊庭は挑発に乗ることなくただ眉を顰めただけだ。藤堂は甲高い気合とともに大きく間合いを詰めた。刹那、構えがまたかわった。

 蜻蛉から中段へ。一足一刀の間合いになるとそのまま華奢な両腕が突き出される。

 まさかの突き技。しかもこれは・・・。

「やだな、平助のやつ。おれのを盗むなんて」その「沖田の三段突き」もどきに元祖は苦笑いした。

 伊庭は冷静だ。すでにわかっていた・・・・・・のだ。一突き目は体を開いてかわした。すぐに二突き目がきた。元祖も驚くほどの威力の突きである。伊庭はそれもよんでいた。それを擦り上げ面で剣先を逸らすと自身の木刀はそのまま振りかぶり上段へ。さすがに三度目はなかった。剣先をそらされ軌道を修正するには瞬きほどの時間ときを要する。が、伊庭は藤堂にそれを与えるほどお人よしではない。体勢を整えきることよりも遣り過ごすほうを選んだ藤堂は小兵らしく真後ろに飛び退った。遠間へと間合いがひろがったのも束の間伊庭の隻腕での蜻蛉の構えから蜻蛉切りが繰り出された。隻腕を鍛えに鍛えたそれは両腕のものと大差ない。しかも踏み込みが絶妙だった。一足一刀の間合の手前から隻腕を伸ばした。これもまた隻腕だからこそ出来る技だ。かなりの速度と威力を備えた蜻蛉切りは、まだ体勢の整いきっていない藤堂の頭頂で寸止めされた。

「参った、参ったよ、八郎君」

「勝者、伊庭!」厳蕃が宣言した。

 藤堂は悔しいとめずらしく思った。目録が皆伝を破ることはできぬのか、とやっかんだ。しかも伊庭は隻腕ハンデがあった。それでも勝てなかった。

「平助、意義ある負けだ。八郎も必死なのだ。だが、それを脅かした。おぬしはなにごとにも囚われぬ柔軟な性質たちと姿勢をもっている。あとは威力を、剣に重みをつけるだけだな。擦り上げ程度では逸らされないようにな」審判役の厳蕃が近寄ってそっと告げた。さらに声量を落としてつづける。「みよ、八郎の渋面を。あれが勝者の表情かおか?心中穏やかではない証拠だ。「魁先生」、さすがは「近藤四天王」の一人だ」厳蕃は、藤堂が「四天王」で落ちこぼれていると劣等感を抱いていることを知っていた。だが、生来、前向きな努力家であることも知っている。下手な慰めよりもはっぱをかければ立ち直ることもわかっている。

「よっしゃぁ、やるぞやってやる。八郎君、今度は負けないぞ。なにをそんなに怖い顔してるんだ。おれに勝ったんだ、もっと嬉しそうにしてくれよ」

 案の定、藤堂はすぐに明るく元気な藤堂になった。

 これはこれで貴重な人材だ。彼のような腕の立つ能天気野郎ムードメーカーもまたなくてはならぬのだ。彼の行動が、言葉が、仲間たちをどれだけ救ってくれるか。心身ともに・・・。

「魁先生」、それはなにもまっしぐらに先陣をきるだけの意味ではないのだ。


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