最高最強の相方(パートナー)
ともに戦えば、これほどやりやすい者はいないだろう。
厳蕃は心からそう思わざるをえなかった。
そう思わせるだけの動きをする辰巳は、やはり軍神やら武神と異名をとるだけの力をもっているということになる。
もはや老人の動きではない。いかに「偉大なる呪術師」といえど、それは本来はあくまでも精霊と交流したり、宇宙を感じたりすることが主だ。
体力系は、戦士の仕事なのだから。
老人たちは、後方宙返りやらとんぼ返りやらを平気でこなしている。それだけでも奇異というのに、掌の小刀をひらめかせ、襲ってくるのだ。
そして、その老人たちの瞳は、左右どちらかが金色だった。厳蕃らとおなじ黒色の瞳の片方が、金色に輝いている。それは、陽光の下、光に包まれていた。
厳蕃の握るくないは、辰巳が幼少よりつかいこんできた、いわば生命、否、魂もしくは魂である。ゆえに、厳蕃がそれに慣れていなくとも、くないのほうがつかえるように導いてくれる。
くないが掌のなかで躍動する。喜んでいる。それは、けっして人間を害すことを、というわけではない。
ともにあることを、ともに添えることを、喜んでいるのだ。
厳蕃は、「The lucky money(幸運の金)」号の船上で、どちらのくないも泣いていたことを、ふと思いだした。慟哭していることを、たしかに感じた。
そして、さまざまなことをしった。
しりたくなかったことまでしらされた。そう、しりたくなかったことまでも・・・。
辰巳が厳蕃の背後を護りつつ、厳蕃が攻撃しやすいよう機をつくってくれる。自身は、自身の身を案ずることなく、機を逃さずそこを衝くだけでよい。
義弟や兄貴分たちがいっていることがよくわかった。
辰巳は、いつもこうして仲間を護りつつ、仲間が力をふるえるようお膳立てをしているのだ。
こういうことは、おそらく、仲間が勝てると、すくなくとも仲間に危険がないと判断した場合のみ、おこなうはずだ。
仲間に活躍させ、手柄をたてさせる為に・・・。
そのお膳立てをすることこそが、辰巳にとっては生きがいといっても過言ではないのであろう。
ただし、仲間に危機や不利が迫る気配を感じれば、まよわず自身で決着をつけるはずだ。
自身の正常な瞳、ほとんどみえぬ瞳から涙が落ちてきていることに、厳蕃は気がついていなかった。
そうと気がついたとき、くないのするどき先端は、片方の老呪術師の頸筋をなめていた。
「お見事です、叔父上」
背に甥の声音がぶつかった。
みえるほうの瞳を、甥のほうへとわずかに向けた。
いま一人の老呪術師が厳蕃の背後に迫ったところを、甥が逆にねじふせていた。
そのまま瞳を向けると、辰巳とそれがあった。
涙に気がついたであろう。だが、辰巳は表情をかえることなく瞳をそらした。
「偉大なる呪術師」をやり過ごし、厳蕃と白き巨狼、そして幼子は、終着点に戻ってきた。
競べ馬は、武士の勝利におわった。




