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ワイルドなお馬さんたち

 なんと、「偉大なる呪術師グレート・シャーマン」たちは武器をつかってきた。すなわち、幾本もの小刀ナイフを投げつけてきたのである。

 それを、厳蕃も幼子たつみも指の間にはさんで受けとめた。


 刹那、突風が二人と二頭を襲った。その凄まじいまでの風は、二人と二頭を軽々と宙に舞わせ、そのまま大地に叩きつけようとした。

 あっという間の出来事だ。いままさに、馬体が地面に激突するというタイミングで、つぎはその地面が不気味な地響きとともに二つに割れた。不毛の地に現れた亀裂は、二人と二頭を呑み込んでしまおうと舌なめずりをしている。


小犬ちゃんパピィ、どうにかせいっ!金峰と四十をどうにかしてくれ」

 厳蕃は、金峰にしがみつき、それをなだめながら叫んだ。

『ちっ!老骨に鞭打たせるでない』

 白き巨狼は、舌打ちした。とはいえ、すぐにその場で四肢を踏ん張るとしばし瞑目した。

 

 またしても大地が不気味に呟いた。それから、ぱっくりと開いた口が逆に閉じはじめた。同時に、さらなる風が吹き荒れ、それが馬体を包むと金峰と四十はふわりと大地に着地した。

 その場で寄り添う二頭。

『うわー、驚いたな』

『はは、でも愉しかった』

 と、二頭は言葉をかわしてから笑った。


 白き巨狼は、それをみて呆れ返った。同時にかわいそうになった。

 非常識きわまりない騎手あいぼうを得たばかりに、二頭とも非常識きわまりないお馬さんになってしまっている。

 常識ある尋常な騎手あいぼうでは、もはや二頭は物足りないだろう。

『そこでおとなしくしておれ。おまえたちの相棒が、いまの仕返しをおえるまでな』

 獣神キモツベカムイたる白き巨狼のいいつけを、いまは騎手をいただかぬ二頭は、同時に馬首をぶんぶんと振り、了承したのだった。


 白き巨狼、否、黄龍の力が起こした風にのり、柳生の剣士たちはあっという間に相手との間を詰めることができた。

 上空から鞍上の騎手へと鋭い蹴りを繰りだす。

 だが、相手はすでによんでいた。二人の蹴りは、空を切り裂いただけだ。相手は、かなりの間をあけた大地に立っていた。

 

 柳生の剣士たちは、それまで相手が騎乗していたと鞍上に降り立った。

 騎手がかわっても、騎馬たちはうろたえることなくその場に佇立している。

 幼子たつみがその二頭に、金峰と四十と一緒に待っているようお願いし、飛び降りると、おなじように飛び降りた厳蕃のもう一頭とともに駆け去っていった。


「われわれは神を相手に暴力をふるうのか?」

 厳蕃は、五間(約9m)ほどおいた距離で片膝ついた姿勢で相手をみつめている幼子たつみにいった。

 なにゆえか、二人の片方のから金色の光がなくなっていた。


 甥からなんの反応リアクションも得られなかったが、厳蕃は気にしなかった。ここ最近の複雑な気分が嘘のように晴れていた。それどころかわくわくとどきどきさえしていた。

 自身の馬鹿さかげんは甥以上だ、ということか。

 苦笑する厳蕃。


「叔父上っ」

 鋭く呼ばれ、はっとしたのと掌でなにかを受けとめていたのが同時だった。

 みると、掌が握っているのは幼子たつみの愛用のくない。

「神様相手に無腰無掌というわけにもいかぬでしょう?わたしが陽動、霍乱いたします」

 幼子たつみが五間先で、自身のもう一本のくないを陽光にかざしながらいった。その美しさのまさった相貌には、不敵と妖艶さとが入り混じった笑みが浮かんでいる。


 こめかみに鈍い痛みが走り、厳蕃が眉を顰めた瞬間には、すでに幼子たつみの姿は遠く離れた相手の間合いのうちに入っていた。


「ちっ!老骨に鞭を打たせるな」

 厳蕃は、喧嘩相手の白き巨狼とおなじことを呟くと、自身も相手の間合いを神速で侵したのだった。

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