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鬼の神使いーインディアンと騎兵隊と武士(さむらい)の戦記― 続武士大神(もののふおおかみ)  作者: ぽんた


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What one likes, one will do best.(好きこそ物の上手なれ)

「鉄、銀、良三、木刀を持ってきなさい」

 厳蕃にいわれるままに木刀を携え走り寄る若いほうの「三馬鹿」。

 市村は斎藤と、田村は原田と、玉置は永倉と、それぞれ対戦する。

 三人を前にすると尾張藩主の元剣術指南役はまずそれぞれの木刀に右の二本の指を走らせ詠唱を送った。それから三人をより近くに寄せるとしばしの間なにやら助言アドバイスを与えた。

 それをその三人の対戦相手が油断なく眺めている。

「うーむ。きっと大剣豪の助言アドバイスと神の力が授けられたに違いないな」

「ああ?新八、それごときにしてやられるほどおまえが弱いとも思えんがな?」りゅうりゅうと愛槍をしごきながら原田が笑った。とはいえ、それらはけっして油断ならぬことは確かだ。

「ええっ?左之さん、なにゆえ槍を?」「素振りするのに棒っきれじゃ軽いんだよ、斎藤。心配すんな、ちゃんと棒っきれで試合するからよ」豪快な笑いが後につづく。斎藤も笑みを漏らした。そして心中ではやはり油断ならぬと思っていた。

 なぜなら、師匠が三人に与えているのは戦いの秘策とそれを成功させる為の力であろうから。


 わっと歓声が上がった。甲板の中央部分に臨時に作られた試合場で沖田が島田を翻弄していた。

 沖田は今回木刀ではなく細身の杖を使用していた。厳蕃が持ってきていたそれは柳生杖術で使用される練習用の杖。長さ五尺ほどで槍より軽いので相手を翻弄するにはもってこいの得物だ。破壊力に期待はできないがその分急所を的確に攻撃することで充分補える。

 沖田は、弟分から柳生三厳やぎゅうみつよしが書に記して遺さなかった秘伝の杖術と剣技を授けられたのだ。

 三厳。十兵衛じゅうべえの名のほうが世に知られている柳生の大剣豪の一人もまた依代であった。蒼き龍の・・。

「ほう、あれが「大太刀」からあの子が得た秘伝の杖術か」

 沖田の華麗なまでの杖術をを輝かせてみている息子にその父親が声を掛けた。息子はめずらしく興奮している。

「父上、あれが三厳殿の杖術なのですね。素晴らしい。総司さん、さすがですよ」

「ああ・・・」沖田は才能に溢れている。才能、という点ではこの中で一番だろう。うらやましいとさえ思える。だが、それだけで上達できるものでもない。沖田も他の者の例に漏れずかなりの忍耐と努力を強いられたはずだ。しかも労咳だったその心身で。剣士が剣以外で死を間近にすることがどれだけ無念か。それを乗り越えた沖田は、やはり生まれついての「天才剣士」なのだ。沖田もまたこれからどんどん伸びてゆく。さらなる高みを目指し、目指す先にあるのがなんであれ必ずやものにするだろう。

「父上、この仲間ひとたちはやはり凄い仲間ひとたちですね」まるでわらべのようだ。

 憧憬・・・。それははるか昔にもったもの。もはや剣士として穢れきった厳蕃には今後まみえることのできないものだ。

「厳周、この不肖の父を超えよ。超えてみせよ・・・」不意にいわれ、厳周は当惑したようだ。「・・・。父上?」

 それは、父が子に対する切なる願いだ。いつか必ず子は親を超えるだろう。はたして父はそれまでこの世にとどまっていられるのか?

「一本、勝者沖田っ!」審判役の藤堂の宣言が轟いた。直後、戦いを終えた二人へ歓声が送られる。

 厳蕃は息子の肩を四本しか指のない掌でぽんと叩いてから審判を交代する為その傍らから離れた。


 若いほうの「三馬鹿」は一心不乱に動き回って相手を辟易とさせた。しかもその動き方は、突然とんぼ返りや宙返りがあったりと意表をつくものばかり。永倉も原田も斎藤も手を焼くほどではなかったにしろ意外に思ったのは確かだ。すくなくとも試合、と呼べるだけの時間ときを充分堪能しながら胸を貸した。そして、若き剣士たちが技のすべてをだしきるまではともに愉しみ、そしていずれも若者たちの木刀を宙に跳ね飛ばして勝利をものにした。

 若いほうの「三馬鹿」は、悔しい思いはしたがうれしくもあった。なぜなら、ほんのわずかでも相手になった・・・・・・からだ。

 これまでだったら相手にすらならなかっただろう。


「あいつらにいかなる助言アドバイスをされたのです、義兄上あにうえ?」土方が尋ねた。彼もまた自身のことのようにうれしかったのだ。

「とくになにも。やればできる、とはっぱをかけ、木刀を撫でた・・・だけだ」そう嘯く柳生の元剣術指南役。

 そう、これにはまず当人たちは木刀に念が籠っており、どんなものでも打ち砕く「神の剣」と思いこみ、勝てると暗示をかけられていた。そして相手は、若いほうの「三馬鹿」に奇策があると思い込まされていた。

 木刀には念など一切籠っておらず、なんのも与えられておらず、彼らは自身の力だけで相手を翻弄できたのだ。

「あの子らはどんどん伸びる。義弟おとうとよ、みるといいあの笑顔を。剣術は相手を殺す為だけのものではなく、強制でも義務でも運命さだめたぐいのものでも決してない。自身をしっかりとみつめ、前を向いて歩むべく一つの手段。本来は辛く厳しい鍛錬などではなく愉しんでするもの。好きこそ物の上手なれ・・・。大好きで愉しめるのならさらに上達できるだろう。それはわれわれにもいえることだ、義弟おとうとよ」

 こと剣術に関しては焦り、悔しさ、劣等感に苛まれてばかりいる土方だ。そう諭されてもどこをどうすれば愉しく剣術ができるのかが理解できない。

 土方は京の疋田道場での義兄とあいつの勝負を思い出した。それは義兄がまだ十代の時分ころに立ち合って以来二度目のことだという。「村雨」と「千子」での勝負は、二人の柳生の剣士の表情かおをずっと明るくさせていた。二人ともうれしそうに笑っていたのだ。あのときの二人の笑顔は、こちらもうれしくなるほどすがすがしくまたうらやましくさえ感じられるものだった。

 あのときの二人の笑顔は、土方だけでなくあの道場でみていた永倉や信江など全員が忘れられないに違いない。

 剣術が好きで好きでたまらず、心の底から愉しんでいる。

 剣術馬鹿というのか?しかも究極の?

 残念ながら、土方自身がそうなることはないだろう。


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