二羽の鷹とスー族の美人姉妹
「朱雀ーっ!」
「桜ーっ!」
地上から玉置が朱雀を、田村が桜を呼ぶと、二羽の鷹は人間の頭上で二度円を描くとゆっくりと地上に舞い降りてきた。そして、朱雀は玉置の肩に、桜は田村の肩に、それぞれとまった。
二羽の鷹は、すでに折り返し地点まで飛翔し、開始線へともどってきたのである。
「ねぇ、どうだった?」
玉置が肩の上にいる朱雀のちいさな頭をみあげて尋ねると、朱雀は翼をわずかにひろげてから「キイッ!」と鋭く一声鳴いた。
「なに?なんだって?良三、朱雀はなんていったんだ?」
田村は、肩上の桜に刺激を与えぬよう気をつけながら、そっときいた。
野生の鷹である桜は、まだ人間に慣れていない。それでも、若い方の三馬鹿は、幼子といっしょに桜と接触しようと試みていた。
将来、できるであろう二羽の子らを立派な鷹にすべく。
朱雀の後継者に、新撰組の隊士にするかどうか、なれるかなるかは別としても、鷹が立派に育つこと、それをみ護ることは栄誉なことだ。
三人はそう信じているのである。
その努力は、じょじょに実を結びつつあった。最初こそ、幼子がいなければ地上になかなか舞い降りてこなかった桜も、朱雀といっしょならこうして舞い降り、人間の肩を止まり木がわりにするようになってくれた。
ゆえに、細心の注意が必要なのだ。まずは信頼感から。絆は、おのずと結ばれる。
三人は、そう信じてもいる。
「わからないよ、銀ちゃん。師匠や坊じゃないと、さすがにわからない。でも、無事に競争はおこなわれているようだよ」
「そっか・・・。なにをいってるのかわかるようになれればいいのにな」
「二人とも、焦る必要はない。わかりあえるのは、きっと精神なんだろう?坊にきいてみるといい」
その二人に助言したのは、山崎だ。白いシャツの袖をまくり上げ、ズボンも膝あたりまでまくり上げている。大粒の汗が相貌のいたるところでひかり、筋をつくって灼熱の大地へと落下してゆく。
「丞兄、なにゆえそんなに汗だくに・・・?」
日の本の言の葉で尋ねかけた玉置の脇腹を、田村は思わず肘で突いていた。
「キイッ!」その田村の突然の動きに、驚いた桜が鋭く鳴く。
「ごめんごめん、桜。良三・・・」
田村の視線を追った玉置は、すぐに合点がいったようだ。こまっしゃくれた様子で頷いた。
山崎の後ろに、例の姉妹がいたのだ。
二人は、山崎が姉妹にかわって水汲みをやってきたに違いない、と思ったのだ。
『なんだ、二人ともそのにやにや笑いは?女性たちに失礼だろう?』
不審顔になり、弟分たちを英語でたしなめる山崎。
『競争はどうなっている?』
山崎は、遠く地平線が望める場所へと姉妹を導きながら、弟分たちに尋ねた。二人は、女性たちに挨拶してから『よくわからない』、と英語で答えた。
『まぁ、立派な鷹・・・』
姉のほうは二羽の鷹をみ、美しい相貌を歓喜と驚きで輝かせている。
『こっちは朱雀。日の本の武士。そちらは桜。亜米利加生まれの女性で、朱雀の婚約者』
田村が紹介すると、朱雀も桜も「キイッ!」と同時に鳴き、美しい姉妹に挨拶をした。
『さわってみる?』
瞳の不自由な妹の掌を導いてやり、玉置が朱雀をさわらせてやると、妹の相貌もまた眩しく輝いた。
それは、頭上の太陽よりも眩しいものであった。




