必勝の策とは?
「でっ、騎手は?なぁ副長、もう決まってるんだろう?教えてくれたっていいじゃねぇか?」
「鬱陶しいやつだな、左之っ!邪魔だ、どいてくれ」
昼下がり、集落をあるく土方に、原田がまとわりついている。
土方は、蝿を追い払うかのように自身の体躯のまえで掌をひらひらさせた。
「まだ決めちゃいねぇ。ついでにいうと、走る馬だって決めちゃいねぇ」
つれない土方に、原田はおおげさに溜息をついた。
「「鬼の副長」が、まだなんの策もたてちゃいねぇだと?そんな馬鹿なことがあるもんか。必勝の策が練り上がっているはずだ」
原田の推測を背に受け、土方は脚を止めた。原田は、すんでのところでその背にぶつかるところだった。
「褒めてくれてありがとよ、左之?」土方は、体躯ごとくるりと振り返ると、長身の原田をわずかにみ上げた。
「おめぇ、まさかスー族の人たちから金をせしめようってんじゃねぇだろうな?」
声量こそ落としたものの、声音に凄みがきいている。
『こんにちは』『やあ!』
スー族の人たちが、通りすがりに二人に声をかけてくれる。
土方も原田も、そのたびに笑顔で挨拶をかえした。
「なにいってる、副長?おれがそんなことするわけねぇだろう、ええ?」
原田もまた、声量を落としていいかえした。
「これはただのお披露目だろう、え?おれたちの連れてきた馬を、スー族の人たちにみせるだけだろ?」
「ほう・・・。やけに殊勝なことをいいやがるな、左之・・・。神様たちが圧勝するのをみ越し、金を賭けさせる算段でもしてやがるとでも思っちまったぞ」
「ふーん、じゃあやはり、神様方はだすんだ」
土方をわずかにみ下ろす原田の男前な相貌に、「してやったり」とでもいうような不敵な笑みが浮かんだ。
そして、いま一つの男前な相貌にもひらめく、不敵な笑み。
「なら、ついてきやがれ」
そういい捨てると、土方はとっととあるきだした。
「ええ?どこにいくんだよ、副長」
その背を、慌てて追いかける原田。
「な、なんだって?あんた正気か?」
てくてくあゆんだすえに、あゆみがとまった先は・・・。
「クレイジー・ホースと取り決めたんだよ、左之。おれがスー族の代表を、クレイジー・ホースがおれたちの代表を、それぞれ決めるとな」
土方の二枚目は、「してやったり」とでもいうかのような尊大な表情になっていた。




