野村利三郎のあらたなる挑戦(チャレンジ)
『利三郎、これをもとに木彫りをしたらどうだ?』
感心しきりに絵を眺めながら、そう提案したのは島田だ。
『それはいい考えだ。リサブロウのマリア様は最高だった』
フランクもおなじように眺めながら感心している。
『いや、木よりも大きな岩のほうがいい・・・。ああ、まてまて、それよりも洞窟や山肌を掘るんだ。そのほうがいい』
さらには、スタンリーも。
『彫刻、ですよね?それはいい考えだ。利三郎、わたしも手伝うから、やってみないか?』
一人離れたところで、顎に掌をあて生真面目な表情で墨絵をじっとみつめている野村。その野村に近づき、相馬が申しでた。
『無理だ』
野村は、はっとしたように相貌をあげた。それから、親友に苦笑してみせる。
『なにゆえだ?挑戦してもおらぬのに、なにゆえできぬと断言する?』
思念だ。白き巨狼のものであることはいうまでもない。
『それならば、いい場所があるにはある』
クレイジー・ホースが陽にやけた相貌に白い歯を浮かべ、そういった。
大勢集まっているのを、かれもまた興味を抱いてやってきたのだ。
『あるにはある?なんだか、もったいぶった表現だね』
沖田だ。その呟きは、耳朶できく、ということでは左右に立つ者にしかきこえなかったろう。が、よめる者に関しては、当然のことながらだだ漏れだ。
『利三郎、このまえみたいに、粗削りとかだったらおれたちも手伝う。ゆえに、やってみたらどうだ?なにもせぬうちから、できぬなどとおまえらしくないではないか』
斎藤だ。めずらしく熱い。
『斎藤のいうとおりだ。おまえならやれる。実際、あんだけ妖艶な女子を彫り上げたんだ。四頭の獣くらいどうってことないだろう、ええ?』
突っ込みどころ満載の原田のあとおしに、その妖艶な女子を崇拝するスタンリーとフランクから、同時に文句が起こった。
『わたしにも手伝わせてください』
そして、ここにも触発された者が。黒人のジムだ。黒光りする相貌には、やる気が漲っている。
『決まりだな、利三郎?おれも含めた全員が、おめぇを補助する。ゆえに、やってみて損はねぇだろう?』
決め手は土方だ。
野村は、まことのところは挑戦したかったのだ。即座に頷いた。
その表情は、きらきらと輝いている。
『で、そこは?どこにあるんだ、クレイジー・ホース?』
土方が問うと、クレイジー・ホースはさしてごつくも貧弱でもない両の肩を竦めた。
『例の不可侵地、つまり、第七騎兵隊が駐屯しているところだ』
それから、爽やかな笑みとともに答えた。




