表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

381/526

驚天動地

「やめなさいっ、勇景っ!」

 その一喝が、小さな森のなかに響き渡った。そして、その響きが静まるまでに、集落のほうから信江が大股で歩いてきた。「鬼の副長」をもいちころに落とすその美しい相貌は、いまや鬼よりも怖い。

 

 土方らは、集落から小川にいくまでの森で話をしていた。


 幼子たつみは、赤狐の仔に自身の相貌を押しつけ、意識の最下層で舌打ちした。

 さすがは叔母上・・・。もうすこしのところで暗示をかけることができたはずなのに。

 なにゆえ察知されたのか・・・。苦笑せざるをえない。


「信江?いったい何事だ?なにゆえ、かようにわが子に怒鳴り散らす・・・」

「兄上っ、しっかりなさいませっ」

 驚き振り返って言の葉を投げかけた厳蕃に、信江は、さらなる一喝でもってその言の葉を封じた。

 全員、驚きの表情かおで信江をみている。無論、その夫も含めて。

「甥にいいくるめられてどうされます、兄上?」

「いや、いいくるめられてなど・・・」

 そこではじめて、厳蕃は自身が、否、自身ら全員がたつみによって暗示をかけられそうになっていたことに気がついた。

 厳蕃は、しれず厳蕃自身の息子とをあわせていた。厳周も気がついたようだ。それから、同時に甥を、あるいは従兄弟をみた。

 赤狐の仔の小さな背に、相貌を押しつけながら、幼子たつみが苦笑しているのが垣間みえた。

(性悪の甥めが・・・油断も隙もない)意識の最下層で、厳蕃は思わず罵ってしまった。


「武者修行にでたいと、おれたちの息子がいっているぞ、信江」

 義兄をかばうように、土方は妻の意識を自身へと向けさせた。

「はやく強くなって、「豊玉宗匠」を死んだ坊に会わせてやりたいって・・・。じつに健気ですよね・・・」

「やかましい、馬鹿総司っ!」土方は大分と学習したようだ。怒鳴り散らすのではなく、低い恫喝が土方の口唇から沖田に投げつけられた。

「だいたい、てめぇがいらんことを教えやがるから・・・」

「いいではないですか、あなた」

 土方の言にかぶせられた信江のそれ。全員がその意味をはかりかねた。沖田のいったことに対してか?それとも土方のいったことに対してか・・・。


「おいおいおい、やめよ、信江。おぬしはいらぬことを・・・」

「おやめになるのは兄上でございます。よもや、女子おなごには口をきくな、いらぬことを申すな、しゃしゃりでるな、と申されますか?この亜米利加くにで?それに、これはわたしたちの子の問題であって、兄上の子の話ではありませぬ」

 信江をよんだ・・・厳蕃の制止にかぶせ、信江はいっきにまくしたてた。

 おとこたちに、なにをそれを阻止する度胸も業もあろうか・・・。


「わたくしがともに参ります。それならば問題ありますまい、紳士諸君ジェントルメン?」

 そう嘯かれ、森に、サウスダコタに、亜米利加アメリカに、地球に、しばしの静寂が落ちた。

「えーーーーーっ!」

 そして、森に、サウスダコタに、亜米利加アメリカに、地球に、喧騒が満ちた。

 

 おとこどもは、等しく度肝を抜かれた。無論、抜いた信江のたつみも含めて、だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ