神様、わが道をゆく!
上座に座す依代たちは、同時に笑いだした。それは、白き巨狼が評す「陰険きわまりない」というものとはかけ離れた、爽やかで心底おかしい、といった笑い方であった。
『さすがは父上。あいかわらずですな。ですが、息子のことをお忘れになられるとは、あまりにもひどいではありませぬか・・・』
頭上で闇の色の羽根飾りを躍らせながら片方がいうと、血の色の羽根飾りのほうも負けじとつづけた。
『兄上の申される通り。父上、おんな遊びがすぎるのではありませぬか?』
それからまた笑った。
『おお、こっちが玄武、こっちが朱雀か?』
白き巨狼は、二人の二間(約3.8m)ほど前でお座りをすると、肉球で一人、さらにいま一人をさしていった。
『・・・』
『・・・』
依代たちの眉間に皺がよった。それは、「鬼の副長」に負けず劣らず深くて濃いものだ。
人間は、いまだ息も声も気もひそめ、さらなる展開にはらはらしどおした。
『父上、お戯れでございましょう?』
『父上、いくらなんでもひどすぎますぞ』
『ふんっ!ひどいのはどちらだ?愚息どもが、母上を焚き付けよこしたであろう、日の本へ。そして、いままた亜米利加へ、呼び寄せたであろう?くそったれめ』
『神様方?ずれてらっしゃいます』
そのとき、無謀にも突っ込みを入れた人間がいた。
無論、この漢、厳周だ。さすが、父親の突っ込み役を物心ついた時分からやっていただけあり、突っ込みどころ、機が絶妙だ。
『ああ、それに、そういうレベルの低い内容の喧嘩なら、あとでゆっくり、思う存分やってくれりゃあいい』
さらに、本命土方の冷静鋭利な突っ込み・・・。
『われらは関係ありませぬ。母上は、ご自身で父上を追いかけていらっしゃるのではないですか?』
『兄上の申される通り。だいたい、女遊びがすぎるのです、父上は』
『父にむかってなんだ?おぬしら、父のことが申せるのか、ええ?二千年前に尻拭いをしてやったのはだれだ、申してみよ』
『あれは朱雀が・・・』『あれは兄上が・・・』
神様方は、あくまでもわが道をゆく、だ。
そして、泥沼感が満載だ。
さらには、人間以上に人間くさすぎるし、なにより助兵衛だ。
『助兵衛などとと申すな!』
『助兵衛ではない!』
『助兵衛なわけがなかろう!』
この場にいる人間が等しく思っていることに、神様方の抗議がかぶった。
『弟たちを呼んでください』
『弟たちに会いたい』
さらなるわが道をゆくの兄弟神。
そのわが道をゆくは、もはや神の域なのだ。




