表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

368/526

「どっちがどっち?」

 闇と、そして血の色の羽根飾りを頭上で躍らせながら、この場にいる者にはわからぬ言の葉で、神の依代たちは白き巨狼にむかっていった。

 血の色羽根飾りの依代は左のが、闇の色のそれの依代は右のが、それぞれ金色に輝いている。

 そして、いわれた白き巨狼もまた、口吻の間からつむぎだす言の葉は依代たちとおなじ類のものだ。


「清の国の言の葉のようですが、おそらく、古語と呼ばれるものでしょう」

 相馬が囁きに、土方だけでなく、だれもが思った。神の獣たちの時代の、国の言の葉なのだ、と。

「わかるか、主計?」土方が囁き返した。が、相馬は相貌を右に左に傾け、口の端をわずかにあげた。

「師匠と坊のことで、壬生狼がなじっているようです。それを「偉大なる呪術師グレート・シャーマン」たちがなにやらいい返していますが、正直、難しすぎてわかりませぬ」

『ふんっ!英語イングリッシュを話せ、話せるくせに、わざわざ古語を囀るな。なんなら、日の本ジパングの言の葉でもいいのだぞ?おぬしらの依代のグランド・サンどもも、日の本ジパングの言の葉を解するのでな』

 英語の思念だ。白き巨狼の配慮にほかならぬ。


『こやつらは、弟たちになんとしてでも会いたいらしい。わが主よ、ここでこうして対しながら、呪術でもって、向こうにいる二人のなかから引き摺りだそうとしていたのだ』

 檻のなかの獣のように、白き巨狼はその場でいったりきたりを繰り返しつつ、双眸だけを土方へと向けた。

「息子と義兄は?大丈夫なのか・・・」「二人は大丈夫なのか?」「師匠と坊は?」

 土方、斎藤、沖田の問いがかぶった。

『必死にあがらっておる・・・。息子ども、わたしを怒らせるな。久しぶりの再会だ。互いに機嫌よく親子の情を確かめ合うべきではないのか?それとも、このまま親子喧嘩へ突入するか?さぞかし壮大な親子喧嘩になるであろうの?』

 狼の鋭角的な相貌に不敵な笑みが浮かんだ。


 神の喧嘩・・・。想像もつかない。人間ひとは、等しくそう思った。


『父上は、あいかわらずあの二人には甘くていらっしゃる』

『そして、よほどかわいがっていらっしゃる』

偉大なる呪術師グレート・シャーマン」を依代とする神の獣たちがいった。いまは英語イングリッシュを使って。

『・・・』

 白き巨狼は、思念を発しないまま、あらためて依代たちに狼面をむけた。しばしの間があり、その間、人間ひとはただ固唾を呑んでみ護っている。

 この後、いったいなにが起こるのか、どうなるのか、静寂と緊迫とにがんじがらめにされながら、ただ、息と気を潜め、だけを三神みつがみに注いだ。


『どっちだ?』

 ながいともみじかいともいえる間の後、ようやく白き巨狼の思念が揺らめいた。

どっちがフイッチ・どっちだイズ・フイッチようわからぬアイ・ドント・アンダースタンドすっかりアイ・ハブ・呆けてビーン・ゲティング・フォゲットフルしもうた・オブ・レイト』 

「そこかっ!」

 白き巨狼の呆けに、日の本ジパング人間ひとは、いっせいに突っ込んだのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ