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アウチマンとアウカマン

 名がアウチマンとアウカマンということを、土方らはイスカとワパシャからこの後に教えられた。

 アウチマンは「野生の鷲」、アウカマンは「太陽の鷲」という意味のスー族の言の葉であるらしい。

 しかし、かれらがそう呼ばれることはほとんどない。互いを呼ぶときだけなのだ。

 なぜなら、かれらは「偉大なる呪術師グレート・シャーマン」だから。それ以上も以下も理由はない。


『われわれにはわかっている・・・』

 闇の色の羽根飾りを頭上で躍らせつつ、片方の「偉大なる呪術師グレート・シャーマン」がいった。やはり、精神こころに直接語りかけてくる。

『過去、現在、そして未来・・・。われわれにはわかっている。ゆえに、なにもいわなくていいし、思わなくともよい』

 血の色の羽根飾りを躍らせつつ、いま一人の「偉大なる呪術師グレート・シャーマン」がいった。こちらもやはり、精神こころに語りかけてくる。


 やりにくい・・・。土方は、心底思った。しきたりだけではない。相手は、まるで人間ひとのように感じられないからだ。うちなるものとも関係がない。なにか超越した存在ものであるかのように・・・。

 そんな「偉大なる呪術師グレート・シャーマン」を上目遣いにみながら、土方は日野でやんちゃばかりしていた餓鬼のころのことを思いだしていた。「バラガキ」と呼ばれていた時分ころだ。

 あるとき、路傍の石に座している坊主がいた。一見して、諸国をまわっている乞食坊主だとわかった。土方自身、神や仏を信じたり敬ったりするようなことはない。が、その坊主から、なにか得体のしれぬものが感じられたので、関わり合いにならぬほうがいい、と餓鬼ながらそう判断した。

 その年、この辺りは日照りがつづき、飢饉の一歩手前までおいつめられていた。

 土方も、喰うものもなく、水も呑めず、ふらふらしながらもやんちゃを繰り返した。

 そうやって周囲の大人や子どもらを怒らせることで、いっときの飢餓感を忘れられるのでは、と思ったからだ。

 土方がその坊主のまえをとおり過ぎようとしたとき、不意に呼び止められた。声によってではない。心のなかに直接囁かれたのだ。驚いた土方は、歩を止め、石の上に座すその坊主をまじまじとみ下ろした。

『もうすぐ龍神があらわれるだろう』

 坊主はそう告げた。

『そうなれば、この辺り一帯、飢饉にみまわれることはなくなる。そこの龍神様の祠の後ろを掘ってみるといい。さしあたり、渇きはしのげるであろう。さすれば、生きる気力も溢れよう・・・』

 自身でも可愛げのない餓鬼だった、と断言できる。そんな世迷言、信じるどころか嘲笑っただろう。だが、このときなにゆえか、土方はそのお告げを信じた。乞食坊主の言の葉を、一字一句違えることなく脳裏と精神こころとに刻んだ。

 その脚で家まで駆け戻り、ありったけの鍬やら鋤やらをかき集め、またそこへ戻った。

 坊主はいなかった。

 そんなことも気にならず、土方は掘りに掘った。幾度も倒れそうになりながら。そして、ついにでてきた。否、湧いてきた。

 地下水が通っていたのだ。

 その坊主に二度と会うことはなかった。

 そして、地下水のおかげで、その年から二年の間はぎりぎりのところでもちこたえた。

 龍神がやってきたのは、坊主のお告げから三年も経たないころだった。

 人々の龍神の記憶はうしなわれたものの、日野の辺りでは、その後、深刻な飢饉はなくなった。


 あのときの坊主とおなじだ。「偉大なる呪術師グレート・シャーマン」は、あのときの坊主とおなじだ・・・。

 そして、あのときとは違い、いまは信じている。そう、身近にいる神を・・・。


『あの父上をてなづけるとは、人間ひとよ、なかなかやるな』

『単純な弟どもならいざしらず、あの父上を惹きつけるとは・・・』

 突然発声されたその言に、土方だけでなく客人全員が驚き、上座をみた。


 そこには、片方のに金色の光をたたえた神獣の依代たちが座していた。


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