表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

363/526

撫子たちの期待

「姐御、大丈夫ですか?」

 もう一台の馬車の馭者台に座し、一点をじっとみつめている信江に、島田が柔和な笑みとともに問いかけた。すると、信江はみていたものから巨躯のおとこへと視線を向け、やはりおなじように柔和な笑みを浮かべた。

「ええ、わたしは大丈夫ですわ、魁さん。ありがとう。わたしより、兄上が心配です。辰巳は、以前より蒼き龍とうまくやっていました。辰巳は、その存在を手放しで認めていたわけではなかったものの、利用すべきは利用し、そして、自身も利用されるべきは利用されていた」

 

 信江は、また視線をさきほどまでみていたものへと転じた。島田もそれを追った。そこには、神をうちに宿すものたちがいる。

「そうですな。死ぬべきだった者を幾人も救っている。これは、本人の力ではなく、神の力以外には考えられない」

 そういいながら、馬車を曳いている二十四と二十三の頸筋をやさしく撫でてやった。二頭とも、かわいいをうっとりさせ、島田の愛撫に身を委ねている。

「ですが、兄上は白き虎を認めるつもりもない。唯一、辰巳と蒼き龍に関してだけは、歩みよりをみせるようですが、それ以外は互いを喰らい尽くすような勢いで、互いを憎んでいます」

「そうでしょうか・・・。わたしには、師匠も白き虎も人一倍、神一倍頑固者で、しかも可愛くなくて、さらには、矜持プライドが高くて、認め合うのを認めたくない、というふうに感じられますが?」

 

 島田は、二頭の頸筋を軽く叩いてから、馭者台にあがって信江と並び座した。

「師匠も白き虎も、心のどこか、ずっと奥か深くかはわかりませんが、そういうところで相手を認め、仲良くしたい、と願っているのではないでしょうか?」

 信江は、はっとしたように島田に視線を向けた。

「たしかに、あなたのおっしゃるとおりですわ、魁さん。兄上の頑固さは、きっと、白き虎でさえも凌駕するに違いありません」

 そういってから、荒れて分厚い掌を口にあてて笑った。

「お案じめさるな、柳生の姫様プリンセス。たとえ悪い魔女ウイキッド・ウイッチが悪さをしようとも、あなたの王子プリンスが助けてくれます。なあ、そうだろう、ケイト?」

 

 馬車の荷台で荷物の整理をしているケイトに、島田が同意を求めると、ケイトは美しい相貌にきらきらした笑みを浮かべ、大きく頷いた。

「ええ、王子プリンストシゾウは、最愛のお姫様プリンセス接吻キッスをしてくれるわ」

 ケイトは、しっかりとした日の本ジパングの言の葉でそう応じた。

 子どもだけあり、ケイトもまた語学の習得がはやい。厳周や信江、若い方のヤング「三馬鹿」とのやりとりで、いまでは意思疎通は問題なくなっている。


「ありがとう、魁さん、ケイト。そうね、きっとそうよ・・・。でも、みてみたい気もするわね」

 信江は、また三神様に視線を向けた。

「ねえ、あなたはどう、ケイト?」それから、内弟子に問いかけた。

「あ、みたいわ。ええ、ぜひともみてみたい」

 内弟子の美しい相貌がさらに輝いた。それは、赤色に染まった空よりもきれいだ。

「ええ?白き虎や蒼き龍を?それはまた・・・。なんとも剛毅なものですな、姐御、ケイト?」

 島田は、ごつい肩を竦めた。さすがは、柳生の女剣士とその弟子だと、心底感心した。野郎おとこでも、その威容、とはいえ、想像上の神の獣を、みたい反面怖いと思っているのに、だ。


「違いますよ、魁さん。たしかに、それはそれでかっこいいクールかもしれませんが・・・」

 信江は、隣に座す島田をみ上げた。そして、「鬼の副長」をも形なしにさせる威力をもつ魅力的な笑みを浮かべた。

「わたしたちのいうみたい、というのは、そちらではなく、そちらになるまえのバージョンですわ」

「はあ?」

 さしもの島田も、お間抜けな応対リアクションしかできなかった。


 白き巨狼のいうことがまことなら、神の獣たち人型ヒューマン・バージョンは、もててもてて仕方がないほどの容姿、ということだ。

 それを拝みたい、とは・・・。

 これはもう、かっこいいおとこをみたいというのが女子おなご性質さがなのか、それとも、信江とケイトだからなのか・・・。

 そう考え、それが心中からだだ漏れであることに気がついたときには、島田の腹部に信江の渾身の肘鉄が入っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ