ついに・・・
全員が下馬した。一行を取り囲むようにして、スー族の人々がじっとみつめている。とくに害意もないが、かといって友好的なものも感じられない。
そう、日焼けしたどの顔も無表情なのだ。
イスカがスー族の言の葉でなにかをいいながら、ワパシャとともに「偉大なる戦士」に近づいた。すると、「偉大なる戦士」の口角がわずかに上がった。
掌の届く距離まで近づくと、「偉大なる戦士」は、まずはイスカと、それからワパシャと、それぞれ抱擁しあった。
抱擁といっても、白人のようにべったり、というわけではなく、距離を置いた位置で軽く、である。それは、まるで儀式か儀礼のようにみうけられる。
三人でなにやら話をしたのは、ほんのわずかの間のことで、すぐにイスカが土方のもとに戻ってきた。
土方の右隣には厳蕃が、左隣には永倉が、それぞれ立って三人の様子を眺めていた。
『「偉大なる呪術師」がなかで待っている。貴賓として、迎えるとのことだ』
『承知した。そのお招きを断る術はなさそうだ』
土方は一つ頷いた。それから、仲間たちをさっとみ回した。
『なかに入れるのは、せいぜい十名以下だ』
土方の意図をよんだイスカが告げた。
『どうするよ、副長?』永倉の意を含んだ問いは、土方がいままさしく、考慮中のことであった。
『わたしたちはやめておこう。様子をみたほうがよさそうだ』
そして、それは厳蕃もまたわかっていることだ。
『大精霊は、そうですね。正直、「偉大なる呪術師」がどうでてくるか、わたしにもわからない。トシたちに危害を加えることはないが、大精霊たちには、なにかしでかすかもしれません』
『よびだす、ということであろう?』厳蕃は、こぶりの肩をすくめながらいった。
『召喚ですよ、大精霊・・・』
イスカは、苦笑した。
土方、厳周、原田、山崎、相馬、「近藤四天王」・・・。
十名がイスカとともに「偉大なる戦士」に近寄っていった。
今回は、いつもの厳蕃の役割をその息子である厳周が務めてくれるはずだ。そこに相馬がいれば、駆け引きの点では心強い。原田に「近藤四天王」は、無論、武の面での同伴。そして、山崎は知識と情報の実だ。土方にとって、山崎はなくてはならない知識なのだ。ただ傍にいてくれるだけで、心身ともに安寧と自信とを保てる。
外に残す仲間たちは、此度は厳蕃がいてくれるので、手放しで安心できる。万が一の場合でも、信江が厳蕃や土方自身の息子を御す術を心得ている。ある意味では、土方以上に。
さらには、島田もいてくれる。これで外に残す仲間たちのことは安心できる。
「義兄上、みなを頼みます」
土方は、「偉大なる呪術師」のティーピーをじっとみつめている厳蕃に日の本の言の葉で声をかけると、小柄な剣豪は、ふたたびこぶりの両の肩をすくめた。
「駆け引きは「鬼の副長」の領域であろう?ああ、こちらのことは案ずるな」
「父上っ!」
そのとき、土方の足許に土方自身の息子が駆け寄ってきた。
「悪さをするなよ、息子よ」
土方が頭を撫でてやると、息子は眩しいまでの笑顔でみ上げた。
「副長」
そして、斎藤もまた近寄ってきた。それから、「千子」を差しだした。その斎藤の右腰には、「鬼神丸」がそっと寄り添っている。
腰の拳銃嚢をはずし、かわりに「千子」を帯びる。
『いくぞ』
すでに帯刀している仲間たちとともに、土方は自身らを待つ者たちへと歩をすすめた。




