Ultimatum(最後通牒)
待避していた信江たち、そして、うちに神を宿す厳蕃たちと合流した。
土方は、あらためて仲間たちをみまわした。
『ことなきをえて、よかったというべきだな、副長?』
永倉は、金剛の赤毛を撫でながらいった。六十頭以上いる騎馬のうちで、その馬体は超重量級に入る金剛。が、馬体とはうらはらに、その四本の脚は速い。永倉の騎馬にぴったりといえよう。
『ほんとだよな。あのまま一戦まじえてたら、いったいどうなっただろう?』
とは、藤堂だ。那智の鞍上で、小さな体躯をせいいっぱい伸ばし、丘の上をみている。
『どっちがつよ・・・』
『だまってろ、鉄っ』
口唇を開きかけた市村に、日の本からやってきた人間のほとんどが怒鳴った。
『ひ、ひどい・・・』
いじける市村を横目に、斎藤もまた、剣のすらりとした馬体を撫でながらいった。
『「偉大なる戦士」、でしたか?かれだけでなく、どの戦士も手強そうでした。しんぱっつあんのいうとおり、大事にいたらず、よしとせねばならぬのでしょう』
『ま、おれたちが負けるわけはないけど、それはそれで、今後の付き合いに支障がでたでしょうからね』
とは、無論、沖田だ。二枚目の天城は、沖田の髪をハムハムしたいのだろう。口をもぞもぞ動かしつづけている。
土方は、全員の相貌をみ、とくに変化がないかを確認した。それは、自身の妻、それからケイトも同様だ。ケイトは、土方と視線が合うと、しっかりと頷いてくれた。
この荒くれ集団にすっかり慣れている。そして、しっかり一員であってくれている。
土方は、心から安堵した。
『総司、戦いは最終手段だ。無駄に戦う必要などない』
『はいはい、わかっていますよ、副長?だって、イスカとワパシャの、ある意味身内ですもの。ただの冗談、ですよ』
『馬鹿総司、冗談にきこえねぇよ』
苦笑とともに、沖田にそれを投げてから、土方は自身の息子と義理の兄へと視線を向けた。
『先ほどのバッファローは?』
『わたしだ』
『わたしだ』
土方の問いに、言の葉と思念とが同時に返ってきた。無論、それらは、大人と獣のものである。
土方は、嘆息しつつ両の肩をすくめた。義理の兄と白き巨狼が、土方自身の息子をかばっていることがわかっているからだ。そして、それはかばった側もわかっている。
『では、「偉大なる魂」のことも、ですか?』
これもまた、だれの発案であるかわかっていて、わざと尋ねた。
『きくまでもなかろう、義弟よ』『きくまでもなかろう、わが主よ』
そして、やはりそう返ってきた。
土方は、自身の息子をみた。父親に叱られると思っているのか、四十の鞍上で、土方の息子は居心地悪そうにしている。
土方は逡巡した。命もないのにいらぬことをするなと、以前、しっかりといいきかせたはずだ。それを護らなかったのだ。ここは、全員の前ではっきりとさせるべきなのか・・・。
が、その一方で、此度はこの手段が一番有効的であり、最善であったこともわかっている。さらには、厳蕃と壬生狼の手前もある。かばってくれたこの二人の顔をつぶすことになるだろう。
『礼を申します、義兄上、壬生狼』
そして、ついに決断した。
此度は、目をつぶろう、と。だが、つぎは容赦はしない。たとえ、周囲の大人がかばおうとも・・・。
『さあ、出発だ。スー族は、われわれを歓迎してくれるそうだ。陽が暮れるまでに、歓迎してもらおう』
土方はそういい、富士に歩きだすようお願いした。
自身の息子と視線をふたたびあわせてから、「つぎはないぞ」と心中で警告することを忘れなかった。
二羽の鷹が、スー族のいる方角へと飛翔してゆく・・・。