突撃!バッファローさん
いまや、土煙は辺りいったい巻き起こっている。大地も揺れている。
バッファローの大群だ。
土方らは無論のこと、丘上のスー族の戦士たちも、指をさし、なにやら叫んでいる。
『これって、わたしたちのほうがまずくないですかね、副長?』
島田がにっこりと笑いながらバッファローの大群を指し示した。
『そこ、笑うところかよ、ええ、伍長さんよ?』
永倉が突っ込んだ。だが、そういう永倉もにやにや笑っている。
『いや、しんぱっつぁん、笑うところじゃないでしょ?このまんまだと、おれたち、ぺっちゃんこになっちまわないか?』
藤堂だ。那智の鞍上で、いつものように頭の後ろで掌をくみ、のんびりとした調子で予言した。
『いや、平助、確実にぺっちゃんこだ。新八さんあたりなら、痩せてになってちょうどいいかもしれないけど?』
とは、二枚目の天城の鞍上の沖田である。
そんな愚にもつかぬことをいいあっているうちに、もはや回避できぬところにまで迫っていた。
『みな、その場を動くんじゃねぇぞっ!』
そのとき、土方が命じた。それは、土方の周囲にいるイスカとワパシャ、スタンリーとフランクには、かろうじて耳朶でとらえられ、そこより遠くにいる仲間たちには、その心中をよむことでとらえられた。
『わかってますよ、「豊玉宗匠」?おれの言の葉の弟子がやらかしていることですよ?』
『ああ、たしかに。わたしたちの坊が、だろう?』
『わたしの従弟、でもありますよ』
沖田にはじまり、伊庭、そして厳周だ。三人とも、やはり余裕の笑みをみせている。
途端に、土方の眉間に皺がよった。
『おめぇら、いつもいってるだろう、ええ?まずはおれの子だってこと、忘れてやしねぇか?』
それをきき、あるいはよみ、全員が笑った。
『みろよ、九重たちにもわかってる。落ち着いたもんだ』
原田が、相棒の九重の頸筋を軽く叩いた。
馬たちは、迫りくるバッファローの大群を、ただ静かにみつめている。原田のいうとおり、馬たちにもわかっているのだ。
『ひゃー』
『おお!』
『すっげー』
なんと、バッファローの大群は、土方ら一行を避け、丘の上へと突撃した。そう、それはまさしく、突撃そのものだ。
丘上のスー族の戦士たちは、叫び声をあげはじめた。
『戦いの前の叫びです』
イスカの説明に、日の本からやってきた漢たちは驚いた。
この巨体の大群を前にしてさえ、怯むどころか挑もうというのか・・・。
それほどまでに、「偉大なる呪術師」の命は絶対なのか?それとも、戦士としての矜持と度胸からくるものなのか?
まさしく、匹夫の勇。無謀以外のなにものでもないだろう。
土方が丘上の「偉大なる戦士」をみ上げると、向こうも土方をみ下ろしていた。距離があり、土煙やらバッファローの巨体やらで、視線を向ける位置までわかるはずもない。それでも、土方には「偉大なる戦士」が自身をみている、と確信できた。
「偉大なる戦士」であるクレイジー・ホースもまた、わかっている。そう、わかっているに違いない。
だからこそ、土方らにスー族の戦士としての矜持をみせつけようとしているのだ。




