白頭鷲と呪術師
それは、なんの変哲もない漢だ。周囲の漢たちとくらべても、さして背が高いわけでも低いわけでもなく、痩せすぎているわけでも太っているわけでもない。あえていうなら、高い鼻をもっている、ということと髪の色があざやかな黒色、ということだろうか・・・。
そう、外見上は・・・。
殺意、戦意、害意、そういったものを発しているわけではない。それどころか、仲間たちと雄大な景色でもみにきたかのようなおだやかさすらある。
だが、気が違った。ほかのあらゆる気、と。
それは、日の本からやってきた武士のものとも違うし、剣士や槍遣いといった武術家のものとも違う。あるいは、銃遣い独特のそれとも。
これが、精霊につうじる、亜米利加の古くからいる戦士の気なのか・・・。
土方をはじめとした日の本の戦人たちは、いまやその漢だけをみていた。
緊張を孕んだ空気は、頭上の太陽に熱され、いまにも漏れだし気化しそうだ。丘上の漢は、遠く、地平線のほうをじっとみている。
地が揺れている。そして、空気も震えている。
それらは遠くからじょじょに近づいていた。
『これは・・・』
丘上の漢だけではない。土方たちも遠く地平線へと視線を向けた。
一度だけ体験したことのある地響き。それは、さほど遠くない過去のことだ。
『息子か・・・』
両の瞳を細め、意識を集中すると、その方角にもうもうとあがる土煙をみることができる。
土方の呟きは確信だ。そして、それはそのまま仲間たちの確信でもあった、。
ティーピーのなかで、二人の老呪術師が向かい合って瞑想していた。
否、感じているのだ。二人の脳裏には、遣わされた「偉大なる魂」がはっきりとうつっていた。
「ふふっ、なかなかやるようだな、アウカマン?」
一人がもう一人にいった。いいや、それは、実際は言の葉によってではなく、思念として送られている。
「ふふっ、それはやるだろうよ、アウチマン?」
送られた側もまた、送った側に思念を送り返した。
それから、二人は同時に瞼を開けた。
二人の真ん中に、どうやって入ってきたのか、「偉大なる魂」がその偉大なる姿を現していた。無論、両者はその横向きのきりりとした相貌をみている。
「ふふっ、父上に弟たち・・・」
一人がいった。背で一つにまとめられた長髪の上で、血の色に染められた羽根飾りが踊った。
「ふふっ、狼神に大神に護り神・・・」
もう一人がいった。背で一つにまとまった長髪の上で、闇の色に染まった羽根飾りが踊った。
「ふふっ、会いたいな」
一人がいったと同時に、その皺だらけの手首で、蛇の皮とバッファローの角でつくった腕輪が震えた。
「ふふっ、感じたいな」
もう一人がいったと同時に、その皺だらけの頸にぶら下がった、山猫の髭と山犬の頭蓋骨の首輪が悶えた。
「偉大なる魂」は、二人のまえから消え去っていた。




