まことの仲間(ファミリー)
丘の上にあらわれたのは、イスカやワパシャとほぼ同じ格好をした集団であった。違うのは、頭部に鳥の羽根飾りをつけ、弓矢や銃で完全武装していることだ。
全員が、馬銜をつけ、背に敷物を置いた騎馬に跨り、丘の下にいる異国人を睥睨している。
そのなかから、二騎が踊りで、そのまま丘の下へと駆け下りてきた。
イスカとワパシャだ。
「トシ、兄弟たち!」
イスカもワパシャも、日の本の言の葉で叫んだ。
わざと、である。同族にわかろうはずもない。
「すまない、かれらをとめることはできない」
イスカは、たどたどしいながらも、日の本の言の葉でそうはっきりといった。
「かれらがおそってくる」
そして、ワパシャもまた、そうはっきりと伝えた。
「副長」
幾人かが同時に叫んだ。
戦いに慣れ親しんだ新撰組ですら、ぴりぴりとしたこの空気はおなじみではあってもけっして愉しいものではない。心身に不快感と緊張感とを与えるだけだ。
「副長っ、どうする?」
「副長っ」
全員が、丘の上を睨みつけながら、すでに戦闘状態に入っている。スタンリーとフランクもまた、それぞれの銃を撃てるよう、態勢を整えている。
『兄弟たち、すまない。かれらは、「偉大なる呪術師」に命じられてやってきた戦士だ』
イスカとワパシャは、合流すると英語に戻して報告した。かれらの霧島と磐梯は、乗り手の気を受け、同様に興奮していた。その証拠に、いまもその場でたたらを踏んでいる。
『説得してみたが、どだい無駄な話だ。「偉大なる呪術師」の命令は、絶対だから』
ワパシャの報告に、土方は一つ頷いた。けっして動揺しない。すくなくとも、けっしてそれをみせぬ。それが、新撰組の副長であり、蝦夷では常勝将軍と異名をとった土方の方針なのだ。
『われわれが敵でない、とわかっていて攻撃を?試すということか?』
『そのとおりだ、トシ。われわれ、それから、大精霊たち・・・』
イスカのいうことをきき、土方はなにゆえか微笑した。
『「豊玉宗匠」?かようなときに、どんな助兵衛な想像を働かせてるんです?余裕ですよね』
とは、無論、沖田だ。わかっていて、にやにや笑いながら尋ねているのを、斎藤が嘆息した。
そう、土方だけではない。みなが気が付いていた。
イスカもワパシャも、「われわれ」と表現している。同族の前であるにもかかわらず、かれらは、土方らを仲間とみなしている。
土方は、それがうれしいのだ。ゆえに、微笑してしまった。
『馬鹿総司、おめぇが護衛役にまわるか、ええ?』
『いやですよ、副長。おれがいなきゃ、やる気満々のあの連中を、下手な句を詠んで淘汰しかねないでしょう?』
『総司っ!』
周囲がいっせいに突っ込んだ。
それを、伊庭と厳周が笑いながらみている。
余裕だ。
『鉄、銀、良三、おめぇらに女子たちとジムを任せて大丈夫だな?』
「承知」
此度ばかりは、若い方の「三馬鹿」も四の五のいわぬ。すぐさま、日の本の言の葉で了承した。
そして、女子たちとジムを伴い、闘争の場より遠ざかっていった。
『あのひときわすげぇ気をもつ漢は?』
女子たちとジム、若い方の「三馬鹿」をみ送ってから、土方はイスカとワパシャに尋ねた。
丘の上に、気になる漢がいる。
『あれは、われわれ部族のなかでも『偉大なる戦士』と呼ばれるクレイジー・ホースです』
イスカが答えた。
それは、ほかの戦士より、はるかに強大な気をもつ漢であった。




