かのじょの名前
かのじょができても、朱雀はやることはちゃんとやる。
ああ、この場合のやること、というのは無論、人間の命じること、ということだ。
いまも、イスカの指差す方角へ、物見にいって戻ってきたところだ。かのじょ同伴で。
朱雀とそのかのじょは、スー族の様子をみにいっていたのだ。
正確には、朱雀の瞳をとおし、幼子が様子を感じる、ためである。
『なんと、かのじょのほうが大きいな・・・』
昼食のため、一行は岩場で休息していた。
右に朱雀、左に朱雀のかのじょをいただく幼子をまえに、人間は一様に思った。否、人間だけでなく、四脚の獣も同様だ。しかも、白いふさふさの毛に覆われた獣は、先日、朱雀に嘴で突っつきまくられた恨みとばかりにせせら笑う、というおまけまでつけた。
『日の本は、亜米利加にくらべ、なにもかも小さい。みよ、なにが大鷹か?雌鷹のほうがはるかに、はるかに、はるかーに大きい』
白き巨狼はわかっている。猛禽類は、概して雌のほうが大きいのだ。しかも、鷹はそれが顕著である。それをわかっているのに、からかいの思念を送るところなど、大人気ないにもほどがある。厳蕃のことをいえぬだろう。
「きいっ!きいっ!」
無論、それに文句をつける朱雀。
『父さん、鷹は雌のほうが大きいって教えてくれたのは、父さんだよね?』
そして、幼子もまた指摘する。厳密には、前世、蝦夷で二つのときに教えてもらったことだ。
『おや?そうだったかな?いやー、わたしも呆けたかな・・・?』
嘯く白き巨狼。
『名前、名前をつけようよ』
そんなことをいうのは、市村にきまっている。
だが、たしかに朱雀のかのじょやら許婚やら、というには面倒くさいし、ある意味他人行儀っぽい。
『だって、弟とか甥が連れてきた許婚に、「弟の許婚さん、なんて呼ぶのですか?』
めずらしく、市村の発案に乗り気の沖田がいった。
それを、土方がじっときいていたが、眉間に濃く皺が刻まれている。
嫌な予感しかしねぇ・・・。
土方は、自身の予感を、否、それどころか確信していた。
『ほら、みな、そう思ってますよ、副長?ということで・・・』
『てめぇは考えなくていい、馬鹿総司っ!』
沖田の言が終わるまでもなく、土方は吠え立てた。
(「梅の花」、なんてつけやがるに違いねぇ・・・)
『いやですね、副長?いくらおれでも、後輩の許婚に史上最悪の名づけるをするほど、いやな先輩ではありませんよ』
土方の心中をよんだ沖田の眉間にも皺が寄った。
『まあまあ、よさぬか、二人とも。たしかに、鉄や総司の申すとおりだ。では、朱雀の許婚の名を募る。それを、いつものように多数決で決めよう。それでいいかな、わが義弟よ』
厳蕃の提案だ。
無論、土方に異論などあろうはずもない。一つ頷き、了承した。
かくして、午後のひと時、朱雀の許婚の名を全員が考えることにあいなったのだった。