内緒の神話(かみばなし)
『家族つながりで、壬生狼の家族のことをききたい』
つぎなる要望もまた、年少者のなかから起こった。
白き巨狼のことが大好きな玉置からだ。
『なんだと?家族?うーむ・・・』さしもの白き巨狼も、いったい、どの雌狼とその仔らの話を選んでしていいのか、すぐには結論がでそうにない。
『一頭に絞るのは・・・』
しばしの間の後、白い頭を右に左に傾けながら、ようやっと思念を人間に送った。
『違うよ、狼、ううん、狼神のほうでなくって、黄龍のほう。怖い奥さんと四人の息子たちのこと』
玉置の要望は、人間を喜ばせた。
そう、ただ純粋に、神ってどんなだろうと興味をもつ者がほとんどだろう。
神の家族関係ってどんなだろう、どんなふうにすごすのだろう、どんなところに住んでいて、どんなものを食べ、どのくらい眠るのか、暇なときはなにをするのか、そもそも、ふだんはなにをしているのか、等々、興味は尽きぬ。
酒は呑むのか、呑むのだったらどんなものが好みなのか?あるいは、家族のなかでだれが一番強いのか?さらには、どんなことでもいい、からかいの情報はないのか・・・?
無論、最後の三つは、だれの純粋な興味かはいうまでもない。
『それも却下だ、却下』
またしても、立ち上がり、小さな体躯すべてで拒否する厳蕃。その家族の一神をうちに宿す者としては、どんな突拍子のないことを囀られるか、想像もできないからに違いない。
『なにゆえです、師匠?』
その却下に意を唱えたのは、意外にも相馬だ。相馬にしてみれば、大国の古き神々のことを知る、またとない機会なのだ。
『師匠ご自身のことではなく、あくまでも白虎のことです。どんなことがあろうと、というよりかは、神にかぎってさほど悪い意味でのなにか、があるとは考えられませぬが・・・』
『そうですよ、師匠。きっと、かっこいいな話しばかりに違いない』
『絶対に、酒が強いって話しに違いねぇ、なんせ虎、だからな』
『それに、強いって話しも!』
野村、永倉、市村がつづける。
『義兄上、みなの申すとおりです。あくまでも、あなたのなかにいる白き虎の話しです。あなた自身も知る、いい機会かと』
義理の弟に説得されても、白き虎をうちに宿す者は、小ぶりの相貌を上下に振らなかった。
やはり、柳生は頑固だ、と全員が思った。おなじ柳生の一族も含め・・・。
『案ずるな、子猫ちゃん』
そのとき、ついに白き巨狼の思念が送られてきた。
『まあ、黒歴史はないということもないが、白き虎のほうは、おぬしのお漏らしほどのものはないからの』
『ええー!』
というほぼ全員の驚愕の叫び。そう、先の幽霊話の際に、幼き厳蕃がお漏らしをしたことを、信江は秘密にしたまま披露しなかったのだ。
『くそったれっ、子犬ちゃんっ!』
『兄上っ!』
最大級の黒歴史を暴露された厳蕃のDHN(信江に地獄に落とされる)単語に、それを咎める信江の叫び。
そして・・・。
『ということは、もしかして、蒼き龍のほうはお漏らし以上に恥ずかしいことがあるの・・・?』
蒼き龍をうちに宿す幼子の呟き・・・。
その表情も小さな体躯も、それはそれは悲しげであった。