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玉置の問い

 スー族の二人もうれしそうだ。内陸に住むかれらが、海賊船で酷使させられるという不幸ハプニングに見舞われ。紆余曲折を経てやっと故郷に戻ってこられたのだ。

 自然と精霊を信じるかれららしく、自身らの身におこっていることはすべて「大精霊ワカンタンカの導き」であると信じて疑わないのだ。

 つまり、これは、かれらがいうところの「大精霊ワカンタンカ」、厳蕃と幼子、それから狼神ホロケウカムイのうちにいる、神獣たちの画策であるのかもしれぬ・・・。


 目的地に近いという安堵も伴い、人間ひとも馬もどこか愉しげであり、また、急いた空気も流れている。しれず、その速度は全体的にはやまっていた。

『師匠は・・・』

『やめろ、良三っ!』

 口唇を開きかけた玉置を、野村がすかさず静止した。

「玉置問うところ口喧嘩あり」・・・。

 いまや、一行のなかで定説化した理論セオリーだ。


『なぜ、なぜなの?』

 玉置は叫んだ。自身、いまだになんの自覚がないかのようだ。自身の周囲で駒を進める仲間たちに、うるうるしたを向け、訴えた。

『あー、いったいなにか、な?良三・・・。ごく簡単単純、たとえば、学問か剣術の問いだといいのだが・・・』

 みるにみかね、問われる予定だった厳蕃が尋ねてやった。かなり気弱な内容にともない、同様に弱弱しい声量ではあるが。

『どちらでもありません』

 やっと相手にしてくれると思ったのか、玉置の表情かおがぱっと明るくなった。

『ほかのうちなるものが、イスカとワパシャのおじいさんたちのなかにいるんですよね?師匠と坊のは、でてこないのですか?反応しないのでしょうか?だって、二人・・のお兄さんで、だいぶんと会ってないんですよね?わたしだったら、会いたくて会いたくてたまらないから、なんとしてでも会おうとすると思いますけど・・・』

 ここぞとばかり、玉置は思いの丈をつづった。それはまるで、厳蕃と幼子のなかにいるうちなるものの気持ち、かのようだ。無論、玉置は単純に話の途中に誰かに邪魔されたくなかっただけである。

 沈黙。奇妙かつ微妙な空気が、頭上に太陽に熱され、熱くたゆたっている。

『そう、なのか?』

 あいかわらず、わがもの顔で馬車の荷台でふんぞり返っている白き巨狼に視線を向け、おそるおそる尋ねたのは、厳蕃だ。

 白き巨狼は、自身の三男の依代と視線を合わせると、まず、「ふんっ」と鼻を鳴らした。それから、ぷいとそれをそらすと、鼻面を荒野のはるか彼方へと向けた。

 

 この辺りは、なにもない。草一本も。土と石と岩だけがみえるものすべてだ。

『上の二人は聡明でな。気性もやさしく穏やかだ。そして、二人は仲が良い。下の二人は、その反対だ。そして、二人は仲が良い。まあ、人間ひとのいうところの、年齢としの離れた兄弟、といったところだ』

 またしても「馬鹿で暴れん坊ステューピッド・ガイズ」呼ばわりされた厳蕃の眉間に皺が寄った。

わっぱの申す通りのような、会いたくて会いたくて、というほどのものではなかろう。すくなくとも、下二人は上二人にこき使われるのが役目だからな。そこまでではないはずだ』

『それ、よくわかるよ。年上だからって、なんだかんだといいつけてくるよな』

 うんうんと幾度も頷く市村。『なにそれ?どういう意味なの、鉄?』とききとがめ、鋭く問うのは沖田である。

『だが、上二人は、年齢としの離れた下二人がかわいいいだろう・・・』

『ええっ?』『そんなことはないでしょう?』

 白き巨狼のつづきに、なにゆえか反応したのは、当の厳蕃ではなく市村と沖田だ。

 みな、それは無視スルーした。

『上二人は、やさしく穏やかではあるが、やることなすこと陰険で姑息だ』

 白い頭がまたこちらに向けられた。厳蕃と視線が合うと、また大きな口吻が開いた。

『てぐすねひいて待っているであろうし、呼びだす気も満々であろうな・・・』

 いまや、全員が厳蕃、それから幼子を交互にみていた。それぞれの鞍上で、依代たちも視線を合わせてしまう。


『悪い事態にはさせねぇよ』呟かれたその言。全員が、依代たちも含め、それを発した土方に注目した。

『そのために、おれや信江、厳周がいる。それに、こんだけ多くの兄弟がな・・・』

 そう簡単ではないことを、土方自身よくわかっている。だが、そう宣言することで、それが真になるかもしれぬ。すくなくとも、そうするつもりだと自身に、そして、仲間たちに再認識させ、覚悟をうながすことができる。


お父さん・・・・は、どっちがかわいいの?』

 馬たちの歩みが再開したとき、またしても玉置が口唇を開いた。それは、馬車上の白き巨狼に対してだ。

 すたたび、白い頭が荒野の向こうに向けられた。

『そうだな・・・。わたしの性質たちから、好きに想像すればよかろう・・・』

 要領を得ぬ答えではあったが、なにゆえか、人間ひとは、お父さん・・・・の想いは感じられたような気がしたのだった。

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